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SF・ファンタジー2005




風車祭(カジマヤー)/池上永一

沖縄の風土を舞台に、伝承や宗教を織り交ぜたファンタジーです。 主人公の高校生は、200年以上島をさすらう旧家の娘の魂(マブイ)に魅入られ、怪光線を浴びてマブイを落としてしまいますが、一年以内にマブイ籠めをすれば大丈夫なんだそうで、彼は娘のマブイを後世(あの世?)に送ろうと奮闘します。

風車祭(カジヤマー」とは97才の誕生祝いらしいですが、冨も名誉も愛も顧みず、ただただ風車祭(カジマヤー)を祝いたい、姑息で自分勝手で生命力豊かな老婆とか、生意気な小娘とか、六本足の妖怪豚とかに翻弄される高校生が、大笑いさせてくれました。

そして切ない読後感・・・。ギャグと感傷とノスタルジーを織り交ぜた独特のファンタジーはもっと読まれれほしいと思います。








ぼくのキャノン/池上永一

沖縄の風土や伝承をテーマにしてユーモアファンタジーを描く池上永一の作品が好きです。 「ぼくのキャノン」は当初タイトルからカメラエッセイかと思ってしまいましたが、やはり楽しく切ないファンタジーでした。本の雑誌の今年のベスト10にも入っていまして、ちょっと嬉しゅうございます。

沖縄本島のある村、カノン砲を神体にした信仰を村人に強制する強烈なオバァは、合法、非合法な手段で収入を確保し、高福祉、高インフラ整備の生活に寄与していますが、ゼネコン狂乱女や宝探しの無法アメリカ人などが現れて村の生活に波風が立ち始めます。

村の繁栄は戦争と一体になっており、沖縄の悲しい歴史と、村の繁栄を陰になり日向になり支えてきた老人達の姿が悲しく美しうございました。

迫り来る村の危機に、博志、雄太、美奈の三人の子供達が立ち上がり、村を守ろうとします。わりあいパターンのようですが、賢い子、たくましい子、活発でおしゃまな子と描き分けられた楽しい子供たちで、彼らの成長と勇気がたまらなくいとおしいです。

池上作品ではばかばかしいギャグも魅力ですが、今回のキモは「寿隊」でしょう(笑)。

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ぼくのキャノン








ポーの話/いしいしんじ

 

うなぎ女たちの息子として生まれポーの、波乱の人生を描いたファンタジー。相変わらずグロテスクなユーモアに彩られている。

下流の方に富裕な町と労働者の町を持つ川の上流で、うなぎを捕って暮らすうなぎ女たち(肌が黒く、人間と精霊の中間のような感じがある)の子供として生を受けたポーは、母親たちの限りない愛情を受けて育つ。この原初的な母性がどぎくつくてパワフルだ。川を住処にして、半分うなぎのような連中である。あるいはうなぎの精霊なのか(笑)。

ポーが10代の時に知り合った運転士メリーゴーランドは、プレーボーイでこそ泥という小悪党だが、体が不自由な妹の元にポーを連れて行く。妹の友達にしたかったのだが、この妹「ひまし油」が強烈で楽しい。コンプレックス故に理論武装して怒りっぽいのだ。メリーゴーランドは、盗みの償いに動物園の象にバナナをやっているのだが、これがすっかり気に入ったポーは、自分も盗みを繰り返すようになる。何ともおかしな理屈だが、この場面はセンチメンタルで好きだった。

「天気売り」というキャラも良い。天気を見ることを生き甲斐にしている善良な変わり者で、晴れると「空を見なさい!」と連呼して回り、雨が降ると申し訳なさそうに歩いているような男だ。町の人の善意で暮らしているが、こういう変わり者が生きられる環境が微笑ましいと思う。

のちにポーと天気売りは旅に出ることになるが、悪夢的でセンチメンタルで諧謔的な旅なのだった。

いしいしんじの作品は、村上春樹と宮沢賢治を足した感じだと思うことがあるが、天気売りは宮沢作品に登場する善良な愚か者のパターンだと思う。よだかとか虔十とか・・・。たまらなく愛おしい(笑)。ポーはややひと離れしたところがあり、言葉に余り気遣いがなく、直截にものを言うが、これも妙に可笑しかった。名コンビという感じだ。












白の鳥と黒の鳥/いしいしんじ

 

ユーモラスだったり悲しかったりグロテスクだったりバカバカしかったり悪夢的だったり、さまざまなアイディアの詰まった掌編小説集。

アメリカの国民的作曲家フォスターが、東京の酒場で「おお、スザンナ」のバンジョーについて語りながらどつき漫才をしている風景なんて、なんてぶっ飛んでいるのだろうか(笑)。

ものまね上手の肉屋の息子で知的障害を持つラーを巡る物語は、まず父親が活写され、そのエピソードが父親の最期を見取る場面に繋がっていく。笑えて切なくてほのぼのして何ともたまらない。

緑色が、自分のお株を奪う青色について桜にこぼす物語の発想も奇天烈だ。しかも抒情的な結末だ。

相変わらず宮沢賢治+村上春樹の魅力である。












リピート/乾くるみ

主人公である大学生の毛利へ、地震を予告する電話がかかってきます。予言通りに地震が起きた後、電話の主は、自分は未来の特定の時点から過去の特定の時点へ意識だけが戻ってくる時間の繰り返し(リピート)をしているものだと言い、過去への旅に毛利を誘うのでした。

この設定はケン・グリムウッドの「リプレイ」ですが、作中でも言及されています。地震予告やリピートの、合理的な謎解きの方向に動いていくのかと思いましたが・・・。

ネタばらしになるので、これ以上書けないのがもどかしいのですが(笑)、ミステリーやサスペンスの興味を盛り込んだ作品です。「リプレイ」+「アガサ・クリスティの有名なミステリー」+「10年ほど前、扶桑社ミステリー文庫で話題になったス○○○・○○○の作品」を足し合わせたような感じでした。面白いものの、風変わりな印象です。

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リピート









空色勾玉/荻原規子

古代史を舞台にしたファンタジー「勾玉三部作」の第一作である。児童文学の扱いであり、図書館でも児童書のコーナーに置いてあったりするが、内容は緻密で字数も多いし、とても子供向けとは思えない。冒頭は「かがい」の場面だし・・・(笑)。

イザナギイザナミ神話をベースとし、高光輝(たかひかるかぐ)の大御神と闇御津波(くらみつは)の大御神の戦いを描いているが、高天原系とまつろわぬ出雲系との戦いという感じでもある。輝を信奉する者と、闇を信奉する者に別れての戦乱は300年以上続いているらしい。

輝側の戦士としてこの世に送られた照日王(てるひのおおきみ)と月代王(つきしろのおおきみ)はアマテラスとスサノオなのかもしれないが、傲慢で美貌の半神半人は西洋神話の感じがして、ちょっと違和感がある。この人たちが「政務」という言葉を口にしたり、「軍隊」「局地戦」という言葉が使われたりするのもちょっと馴染まない。古代の物語なのだから、それらしくしてほしいと思う。

闇を信奉する一族の出自ながら、輝の実直な夫婦に育てられた沙也は、かがいの夜、己の出自を知らせる一族のものに出会い心まどうが、自分は輝の者であると信じて、月代王の采女として宮殿に上がる。照日によって即座に身元を言い当てられた沙也は辛い日々を過ごし、輝の実態を知るにつれ、闇の者としての己を自覚するようになる。

輝の御子の鬼っ子稚早矢(ちはや)と出会い、共に宮から脱出した沙也は闇のもとに身を寄せ、戦いの中で成長し、ついに己の使命を覚ることになる。稚早矢は無垢で超然とした性格だが、沙也との関係は、「千と千尋の神隠し」のハクと千尋を思わせる。徳間書店だし、案外引用しているのかもしれない(笑)。











白鳥異伝/荻原規子

 

勾玉三部作の第二弾。今回はヤマトタケル伝説を下敷きにしている。

三野(みの)の地で、勾玉を伝える橘一族のお転婆娘遠子と一緒に育てられた小具那は拾われた子であり、それ故に多少のいじめを受けながらも家族には愛されている。己を表に出さず、常に控えめにしている小具那だが、遠子とあいだの絆は絶対という感じだ。

大王の妃として一族の娘に白羽の矢が立ち、迎えに来た皇子に容貌が似ていたため 、小具那は影武者としての教育を受ける為に都に連れて行かれることになる。再会を誓いつつ離れていく小具那と遠子の約束が果たされる日はあるのか、悲しい予感の付きまとう別れだ。

その後、三野の地は大蛇(おろち)の剣の力による攻撃を受け、焼亡する。一族の地を捨て、呪いを鎮める力を持つ勾玉を集める試練の旅に出た遠子だが、この波瀾万丈の旅の過程で描かれる、遠子の執念と変化が作中の白眉だ。何とも健気で意地らしい遠子である。

勾玉集めはドラゴンボールを思わせるが、更には八犬伝や水滸伝がありそうだ。遠子は、伊津母(いづも)の地で出会った玉造師の管流(スガル)の助力を得ることになるが、脳天気で女好きで自信過剰な管流のキャラが楽しい。実に頼りになる。

中盤からはいろいろと苦悩する小具那だが、実際はナイーブな好青年である。遠子との再会が適うことを願わずに止まないが、道は険しい。

純粋で健気な少年少女が登場するあたり、このシリーズはジブリの作品を思わせるところがある。版元は徳間(それ以前には福武書店から出版されている)だし、何か関係があるのだろうかと思ったりする(笑)。












蒲公英草紙/恩田陸

 

「光の帝国」に続く、不思議な能力を持つ常野一族をモチーフにした「常野物語」第二弾である。

東北の片田舎、代々の庄屋である槇村家が善政を施して、日露戦争が始まりかけた時代に取り残されたように平和を享受する村がある。物語る主人公は、槇村家の敷地の片隅に寄寓する医師の娘峰子で、病弱なお嬢様聡子のお相手役としてお屋敷に出入りすることになるのだが、平和な片田舎で、聡明で美しいお嬢様との幸福な思い出を語るあたりは「リセット/北村薫」の雰囲気だ。

必ずしもハッピーなだけの物語ではないが、豊かな村の子供時代を語ってノスタルジックな魅力がある。不思議な力を持つ少年・光比古がその力を見せる場面が何と言っても作中の白眉か。ややあざといが感動的。











六番目の小夜子/恩田陸

生徒間で毎年極秘裏に「サヨコ」役が受け継がれ、三年に一度「サヨコ」をモチーフにした芝居が催されるという秘密の伝統がある高校に、津村沙世子という不思議な転校生がやってくる。今年のサヨコは彼女なのか?、サヨコのシステムを動かしているのは何者なのか?

サヨコの謎を解こうとする高校生と、それを監視するような不気味な動きが交錯し、かなりホラーな青春小説になっている。この本は再読で、初読の時に、何がサヨコなのか釈然としなかったのだが、やはり今回もよく分からない(笑)。

ミステリアスな美女転校生が主眼の青春ホラーということで、吉田秋生の「吉祥天女」そっくりのような気がする。一部の設定や筋立てが酷似しているのだ。「六番目の小夜子」が極上の青春ホラーであることは間違いないのだが・・・。












スカーレット・ウィザード/茅田砂胡

入れ物としてはジュニア向けSF新書ですが、これが滅法面白い(笑)。 連邦を支配するクーア財閥の創業者は、一人娘のジャスミンに49%の株式を残しました。7人の重役達には7%ずつでこちらも49%が遺贈され、残りの2%は娘の結婚相手に送られることになっていますが、財閥を我が物にしたい重役達は、邪魔なジャスミンをなんとか片づけたいと思っているのです。 ジャスミンは一筋縄ではいかず、凄腕の軍人で誇り高くて傲岸不遜で大女で美女という、非常に魅力的な女傑ですが、残り2%を我が手にするため偽装結婚を思いつき、自由無頼に生きる大物海賊ケリーをスカウトするのでした(「デルフィニア戦記」のリーとウォルみたいな感じがありますが、ケリーの方がウォルよりも剣呑そうです)。

ケリーは無頼な無法者ですが、己に自信を持つ誇り高き男であり、軍や警察から追われながら一度も捕まることがない、有能な宇宙船乗りでもあります。このあたり、スター・ウォーズのハン・ソロを思い起こさせました。

桁外れな二人の暴れっぷりが痛快で、破天荒な夫婦の大宇宙恋愛SFは、著者の言うところではハーレクイン・バイオレンスだそうです(笑)。「夫唱婦随」という言葉がありますが、これは「婦唱夫随」という感じが致しました。

感応頭脳という、性格を持った自律的頭脳が重要なキャラで出演していますが、ケリーの相棒であるクレージー・ダイアンのぶっ飛びぶりも笑えます。突然変異種で、人工脳が備えているべき人命尊重倫理などかけらもなく、気に入らなければ殺人も辞さない危ない奴です。魅力的な可愛い悪女という感じでしょうか。ジャスミンとはまた違う意味で女傑です。海賊の相棒になるアンドロイドと言えば漫画「コブラ」に出てきたレディを思い出しますが、このあたりも影響を受けているでしょうか。そういえば、ケリーの設定自体がコブラに似ているような気がします。

様々な行く立てから空に浮かぶ要塞に攻撃をかけることになったクーア夫婦は、それぞれの人脈を生かして、軍や海賊から腕利きたちをかり集めることになるのですが、この熱い連帯感が痛快です。昔気質の海賊の親分は、おそらく「鬼平犯科帳(池波正太郎)」の影響と思われます。途中の巻では凶悪な海賊が出てきますが、これなどは「畜生働き」の盗賊でしょう(笑)。

非常識夫婦のキャラ造形には「一夢庵風流記(隆慶一郎)」の前田慶次郎の面影がありますし、「スターウォーズ」「宇宙戦艦ヤマト」を思わせる場面もあり、様々な娯楽作品へのオマージュになっているようにも感じられました。

スカーレット・ウィザードは著者の第二長編シリーズで、第三シリーズの「暁の天使たち」を先に読み始めてしまったので先が分かっている部分があるのですが、それでも十分に面白うございます。

女王に海賊に金銀黒(分かる人には分かるでしょう(笑))の「クラッシュ・ブレイズ」というシリーズも始まっているそうで、これも読まなければならず、嬉しい悲鳴でございます。








スカーレット・ウィザード外伝/茅田砂胡

本編の後日譚という感じでしょうか。非人間存在であるルーファスと海賊ケリーとの交流がしみじみと気持ちよく描かれています。

ルーファスは、繊細で優しくて天真爛漫、優美で中性的ですが、怒りに火が付くと非常に凶暴になるというなかなか魅力的なキャラで、茅田砂胡作品の各所に登場する重要人物です。自分の世界では異端児で、人間世界にひょこひょこと現れますが、ケリーはそういう不思議な存在をこともなげに受け入れられる度量の大きな人間なのでした。

時折人間ではない部分を見せてしまった末に弁明する時のルーファスは、いたずらを見つけられた子供のようにおどおどしていてなかなか可愛いのですが、ケリーには訳の分からない理由を並べ立てていて、「公用語でしゃべれ、天使」と言われる羽目になります。このあたりのギャグの呼吸が相変わらず楽しゅうございますね。

先へ続く伏線もあり、新たなシリーズも始まっているので楽しみではありますが、未読作品が少なくなっていくのがやや寂しいような・・・(笑)。

ファンタジーと言えば、グイン・サーガ(栗本薫)がついに百巻目を刊行したそうで、26年目の快挙だそうです。最初の20巻くらいまでは読んだのですが・・・。








時の旅人/長野まゆみ

浦島伝説をモチーフにした連作ファンタジーで、時間移動、パラレルワールド、転生などのSF的な道具立ても出てきますが、それよりも何気ない描写に魅力を感じます。

この世と微妙に重なる不思議な世界が当たり前のように存在しているのが楽しく、また、 過去から流れてきた少年と現代の少年の友情とか、人中にまぎれるシロウズ(たてがみを持つ不思議なカメ)と普通の人との関わりとかが優しく、奇妙に心地よい小説でした。

この作家の作品は、以前に「よろづ春夏冬中(あきないちゅう)」を読んだことがありますが、こちらはボーイズラブの香りが漂うファンタジーでした。「よろず…」ほどではありませんが、「時の旅人」に登場する少年たちにも、やや耽美的な関係が読みとれますね(笑)。

この「時の旅人」というタイトルは、もうちょっと工夫の要ありと思いますが・・・。

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時の旅人









トキオ/東野圭吾

難病で死を目前にしている息子が若き日の父親の前に現れ、行動を共にするファンタジー。 この父親は、生まれ育ちが複雑でひねくれており、こらえ性がなく、職を転々としている。金にだらしなくて適度にこずるいが、道に外れたことはできない性格でもあるようだ。このダメな父親を、息子が何とかまともな道に引き戻そうとするのだがなかなか上手く行かない。父親がダメなままだと自分が生まれないのだから息子も必死になろうというものだ(笑)。

トラブルに巻き込まれた恋人(母親になる人ではない)を追って大坂に出向き、必死の救出を行う父親は、ダメ男ながら誠実さも持ち合わせている感じで、息子との友情も心地よい。

未来からやってきたものが過去に影響をし、その影響を受けて未来が同じように動き出すという設定がSFでよくある。事象が過去と未来で循環しているというのか、どうもすっきりしない。SFの設定を安易にミステリーに持ち込んだ、という感じがしなくもない作品である。








gift/古川日出男

「アラビアの夜の種族」「サウンド・トラック」など、不条理で耽美的な長編ファンタジーを発表してきた著者のショートショート集です。

妖精の足跡をビデオで記録しようとする「ラブ1からラブ3」、アラブ世界では高度な神学論争が出来るほどの天才児、日本では無力な三才七ヶ月児「オトヤ君」、屋上で不思議なものを飼育する級友との連帯感が熱い「夏が、空に、泳いで」、叔父夫婦が産んだと主張する猫(つまり従妹)を引き取って世話する「光の速度で祈っている」、生春巻を食べて猫が話す夢を見る「生春巻占い」など、奇妙だったり不条理だったり優しかったり、不思議な魅力一杯でした。

ショートショートと言えば落ちに重点が置かれがちだと思いますが、この作品では導入部のアイディアが面白うございます。

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ベルカ、吠えないのか?/古川日出男

惜しくも直木賞を逃した候補作。バーチャルな犬の年代記という感じだろうか。

日本軍が撤退したアリューシャン列島の孤島に4頭の軍用犬が残される。その後米軍に接収された犬たちの系譜を、グロテスクに、陰惨に、滑稽に、露悪的に、高らかに語っている。更に旧ソ連の軍用犬部隊の黒幕やらロシアマフィアやら日本のやくざやらがからんで、コミカルにスリリングだ。

たたみかけるような文体で、犬の視点で語る地の文がおかしい。「イヌよ、イヌたちよ、お前たちはどこにいる?」などの問いかけに対し、「オレカ?」とイヌが問い返したりする。内容的には結構悲惨だったりするのだが、勢いで読ませてしまう。誇り高き犬たちの思いが楽しいが、彼らのたどる道は決して安逸なものではない。












文学刑事サーズディ・ネクスト2 さらば大鴉
/ジャスパー・フォード

巨大財閥ゴライアス社が支配するバーチャルな英国を舞台に、特別捜査機関(スペック・オプス)の文学刑事局(リテラテックス)に所属するサーズディ・ネクストの奇想天外を描くSFミステリシリーズの第二弾です。

スペックオプスには、時間警備隊やら園芸執行局やら吸血鬼・狼人間処分局やらの摩訶不思議な部局がありますが、文学刑事局は、直筆原稿の盗難や作品の真贋の鑑定などを扱っています。 前作ではマッド・サイエンティストの伯父の発明したシステムで「ジェーン・エア」の中に入り込み、純粋悪のアシュロン・ヘイディーズと対決したサーズディですが、今回はゴライアス社が、エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」に潜入しろと脅迫します。自力で本の世界に入り込まなければならないサーズディは、いつしかブックジャンパーの能力を獲得するのでした。

今回の読みどころは、何と言っても本の中の世界の治安を管理するジュリスブックスという機関でしょう。現実の評論によって指摘されているような矛盾点を補修したり、サーズディのような能力を持つ人間が小説の内容を改変しようとする企み(若草物語のベスを死なせたくない!)を阻止したりと、秩序を守るべく奮闘しています(笑)。

文学的な小ネタがちりばめられ、原典を知っている人にはたまらなく痛快でしょう(もちろん。そうでなくても楽しめます)。チェシャ猫改めウォリントン自治州猫や、「大いなる遺産」に登場するミス・ハヴィシャムなど、作者の手を離れて動き出す登場人物達が楽しうございます。

スピーディーなハードボイルドと、奇想天外なSFの魅力が一度に味わえる不思議な快作シリーズですが、不条理度が一段とスケールアップし、物語はどこへ向かうのか、次回作も楽しみです。

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