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少年少女小説・YAノベル・児童文学2005



麦ふみクーツェ/いしいしんじ

すべての音楽好きの方にお勧めしたい小説でございます。 「ねこ」というあだなの少年が、辛いことや悲しいことを経験しながらも決して不幸とは言えない人生を成長していく姿を描いた少年小説ですが、村上春樹の小説に挟まれる少年時代のエピソードをふくらませて、少し宮沢賢治風味を付け加えたという感じが致しました。

「ねこ」は、厳しいアマチュア吹奏楽の指導者である祖父と、数学の資質を持たない数学者の父(素数に取り憑かれている)と暮らしています。この一家は失意のうちに港町に流れてきたのですが、町に着いた途端、町の有志で結成されたブラスバンド(指導者なし)のめちゃくちゃな音を聴いた祖父は練習場に乗り込んで行き、「お前たちに必要なのは正確なチューニングとロングトーンだ」とのたまうのでした。少しでもブラバン経験があると、何か納得してしまう台詞でございます(笑)。

麦ふみクーツェという幻覚を心の支えに生きている「ねこ」は、背が異様に高く心臓に疾患があり、周りから疎外された存在ですが、祖父が指導する町の吹奏楽団の小父さんたちには可愛がられています。音楽家としての才能を持ちながらもそれを表現しえないでいた彼は、入学した音楽学校でも疎外されますが、互いの中に響き合う物を持つ盲目の元ボクサーと出会ったことから、音楽家としての人生を歩み出すことになるのでした。

主要人物のほとんどが障害や病気を抱えていて、「へんてこ」として差別されていますが、それ故にこその輝きを持っているように思います。音楽の喜びに溢れており、幸福と不幸は背中合わせという陳腐な感想になってしまいますが、痛くて切なくて感動のある小説でした。

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麦ふみクーツェ








武蔵野S町物語/永倉万治

永倉万治の作品が好きです。「東京恋愛事情」や「この頃は、めっきりラブレター」などの、エッセイとも創作ともつかない作品には軽妙で自立した愉快な遊びの精神があり、70年代の東京軽薄文化の香りが漂っていたように思いますし、「みんなアフリカ」は、センチメンタルな愛すべきダメ男の小説でした。

10年ほど前かに若くして脳溢血を患い、その後奇跡的な回復を見せましたが、結局、近年に帰らぬ人になってしまったのが残念です。

武蔵野S町物語は、 昭和30年前後、東上線沿線の郊外の町を舞台に健一少年の一年を描いた少年小説です。恐らく著者の自伝なのでしょう。ユーモラスでノスタルジックで、この手のものとしては王道という気がします。

米兵にたどたどしい英語で道案内をした父親を誇りに思う話、野原で駆け回るガキども、いかがわしそうな大人の女性に対するほのかな憧れ、子供が遊んでいるところに空気銃を撃ついかれた青年をどやしつける鉄道公安官(友達の父親)の格好良さ、運動会の活躍で一目惚れする隣のクラスの女の子などのエピソードが次々と現れ、私自身東上線沿線をうろちょろしていたこともありまして、なんとも懐かしい気分になりました。人間関係が濃密だった時代の物語という感じが致します。

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武蔵野S町物語ちくま文庫








魔法があるなら/アレックス・シアラー

ぬえの石窟の石姫さんのレコメンドで読んだ本です。児童文学の範疇でしょうか。物語は小学生のリビーによる語りで進行します。

二人の娘(一人は幼児)を抱えたシングルマザーは、突如トランクに荷物を詰めて旅行を思い立つ癖があり(要するに夜逃げですが)、この日二人の娘を連れて旅立った先は何とデパートなのでした。デパートに泊まり込もうという算段です。

世界中のチョコレートがあり、遊びきれないほどの玩具があり、一人に三十台のテレビがあり、素敵な二段ベッドがあり、何とも理想的な夜逃げ先ですが、苦労性のリビーは、いつ見つかるかと心配でたまらないのでした。

ひと気のないデパートを徘徊する面白さ、リビーの心配、深夜の大冒険と読みどころもたっぷりで、安心して楽しめる物語です。子供の冒険と言うことで、ケストナーの「エミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」に共通するような印象を受けました。








ゴールデンサマー/ダニエル・ネイサン

フレデリック・ダネイが本名のダニエル・ネイサン名義で発表した自伝的な少年小説。

ダニー少年の一夏を描いたもので、この少年のキャラが秀逸だった。体は貧弱で腕っ節はないが、想像力豊かで尚かつ金への執着が強く、さまざまなアイディアをひねり出してはチャドとサートという友人に汗をかかせて小金を稼いでいる(笑)。ゆすりまがいのアイディアまでひねり出しておいて実行しないシーンがあるが、この時には自分の正義感を誇ったりしているのが妙だ。

暴力的な少年に知恵で対抗しようとして敗れたりもするが、このあたりはのび太を思わせた(ドラえもんはいないので自力で頑張っている)。

小説に書かれる「少年の夏」は、妙に輝いていたり、奇想天外なハラハラドキドキがあったり、何か波瀾万丈な要素がありがちだと思うが、この小説は、頭のいい少年の日常を普通に描いている。ユーモアとノスタルジーという定番も備えて、楽しめる作品だった。












トラベリング・パンツ/アン・ブラッシェアーズ

刊行当時、書評誌の「本の雑誌」で話題になっていた少女成長小説。

主人公は仲良し四人組の女子高生で、マタニティビクス教室に通っていた母親達を通じての付き合いですが、母親達はとっくに疎遠になっているのに娘たちは親友なのです。

仲間の1人が手に入れたジーンズは、体型の違うそれぞれに何故かぴったりはまってかっこよく見える魔法のジーンズでした。初めて別々の夏休みを過ごすことになった4人はジーンズを送り合うことを約束し、トラベリング・パンツは4人の切なくも美しい成長を見守ることになります。

4人のうち3人はよその場所へ出かけるのですが、頑固で短気なティミーだけ地元でバイトをすることになります。ティミーがバイト先で知り合う、生意気で洞察力のある病弱な少女との一夏の交流が特に心に残りました。

私のようなオッサンが読むにはちょっと恥ずかしい箇所もありますが、切なくて悲しくて幸福な、読後感の良い小説だと思います。後日談である「セカンド・サマー」は母と娘の葛藤を描いており、同様に楽しめました。

まぶしく切ない夏というと、トム・ソーヤーから、キング、マキャモン、シモンズ等のホラー、ボブ・グリーンの青春回顧エッセイまで、大体は少年が主人公と言うことになっていますが、考えてみれば女の子にも同様に夏休みはあるわけでした。

この本について投稿したことのある掲示板の管理人さんは、「トラベリング・パンツ」という言葉に対して真っ先に旅行用の下着を思い起こしたと言っておられましたが、私も含めて、「パンツ」という言葉が下着に直結する世代がありそうです(笑)。

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トラベリング・パンツ
セカンドサマー








アイ・アム・デビッド/アネ・ホルム

薄い本ですが、夜11時頃に何気なく読み始めたら止められなくなって、1時過ぎまでかかって読了しました。1963年に書かれた児童文学のベストセラーだそうで、映画化に合わせて角川文庫入りした模様です。

赤ん坊の時から収容所に幽閉されていた12才のデビッドは、恐ろしい看守である「あいつ」から、「30秒だけ見逃してやるから脱走しろ。脱走したらひたすら北へ、デンマークへ向かえ」と告げられます。大人になったらもっと過酷な目に遭わされると脅され、デビッドは脱走を決心するのでした。

どこの収容所というようにはっきり書かれているわけではありませんが、冷戦下の共産圏であるらしい設定で、絶望と共に生きてきたデビッドは初めて希望を持ったのかもしれません。ヨハンという善人の収容者がいて、デビッドの魂の教師になっていたようですが、すでに故人になっている彼の存在が逃亡中のデビッドを励まします。抑圧された灰色しか知らなかった彼が自然の美しさに涙するエピソードは、実に多くを物語っていました。

デビッドは正直で真っ直ぐで勇気のある子供ですが、自由を奪う者、ひとを支配しようとする者を激しく憎んでおり、狷介さも持ち合わせていて、当然の事ながら子供らしくはありません。笑顔の作り方を知らないというエピソードが胸に堪えます。

常に自分らしくあることを心がけており、これが「アイ・アム・デビッド」というタイトルに繋がるのでしょう。心の中で考えた独自の神様に祈ったり不平を言ったり感謝したりする時、「ぼくはデビッドです。アーメン」と結んでいるのが何とも切のうございます。

「あいつら」の影におびえながら逃亡を続けたデビッドは、ある女の子を助けたことでその一家にしばらく逗留しますが、一家の絆を知り、自分には持ち得ない物として、希望を捨ててしまうことになります。

希望と絶望が交差するデビッドの旅の果てには何が待っているのか?大変興味を抱かせる結末で、やや出来過ぎかとも思いますが、ミステリーではなく、少年の勇気と涙の物語なのですから、これで良かったのでしょう。私は本を読んで泣くことはありませんが、このエンディングはちょっと危なかったです(笑)。


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アイ・アム・デビッド角川文庫







































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