ミステリー2006
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ミステリー・サスペンス・冒険小説2005





男たちは北へ/風間一輝    虹の家のアリス/加納朋子    スペース/加納朋子
東京バンドワゴン/小路幸也    ホームタウン/小路幸也    埋み火 Fire's Out/日明恩
落下する緑/田中啓文

やっつけ仕事で八方ふさがり/ジャネット・イヴァノヴィッチ    九死に一生ハンター稼業/ジャネット・イヴァノヴィッチ
上空からの脅迫/S・L・トンプスン



男たちは北へ/風間一輝
06/7/3

自転車の旅と自衛隊内の謀略が交互に語られる、センチメンタルな傑作ロードミステリー。

自衛隊の狂気の幹部が企画したクーデター計画の印刷物が、偶然のことから桐沢風太郎(自転車で旅するフリーのグラフィックデザイナー)に拾われる。これを奪回すべく法務官の尾形が追跡し、物語は二人の視点で交互に語られるという設定である。

桐沢には安保反対運動に参加した過去があり、革新政党の活動家だった伯父がいて、編集長賞を受賞したこともあるライターであると言ったような情報が収集されたから、とんでもない奴に拾われてしまったと、自衛隊の監視班は色めき立つことになる。

旅の途上、桐沢は無銭旅行をする少年と知り合い、二人で競うように青森へ向かう。少年の成長と、彼を見守る桐沢の視線が爽やかではあるが、やや説教臭いような気もする。自由・硬派・男臭さを信条とするような人間に描かれている桐沢は、野田知佑椎名誠系列の感じだ。やや古くさくも思うが、JR発足当時に44才という設定だから、現在なら63才か。44歳は現在の自分の年齢だが、それくらいあっという間に経ってしまうのだなぁと、やや薄ら寒い(笑)。

偶然を装い桐沢に接近した尾形は、桐沢にわずかな友情を感じ始める。二人とも自立した人間であり、かつ風変わりで、大して言葉を交わした訳でもないのに通じ合うものがあったという訳である。クサいクサい(笑)。

謀略などのミステリー的興味、自転車の旅の爽快さ、友人への桐沢の思い、少年の成長、ハードボイルドな活劇など、さまざまな要素が詰め込まれた小説だ。数作の傑作を残してあっという間に世を去った著者の早世が残念。センチメンタルでユーモラスでマッチョな作風は、今時から考えればやや古くさくも思えるが、再読しても面白さは変わらない。










の家のアリス/加納朋子
06/1/27

不思議の国のアリスになぞらえた謎解きミステリー「螺旋階段のアリス」続編。早期退職して探偵行を始めた仁木と、彼のもとにふいに現れた不思議な美少女との活躍を描いて好調だ。駒子シリーズの「スペース」を読んだ時にも感じたが、この作家、「優しさ」だけではなく、ほのかな悪意や善意の侮蔑みたいなものをからめるのが上手くなっていると思う。

「虹の家のアリス」市村安梨沙の後見人のような叔母篠原八重子は、昔気質の毅然とした老女であるが、自宅で近所の主婦に主婦としての作法を教えている。生徒の一人が運営している親子クラブに些細な嫌がらせが頻発しているのは何故か、という依頼を仁木はあっさり看破してみせるが、この後の安梨沙の推理が「技あり!」という感じだし、微笑ましい。ドメスティックな謎をうまく仕込んだものだ。

「牢の家のアリス」以前にベビーシッターの仕事をしたことがある青山産科医院から赤ん坊が消えた。しかもドア前には防災設備の業者がいたという密室である。不思議、可憐、天真爛漫の美少女に垣間見えるほのかな悪意がスパイスになっている。

「幻の家のアリス」安梨沙の家に向かった仁木は、安梨沙の養育係の女性から、安梨沙は何故自分によそよそしくなったのか突き止めてくれと依頼されてしまう。それぞれの目から見えた安梨沙像だけを実像と思い込み、真実の安梨沙を無視してきたつけが回ってきたというものだが、仁木自身の娘も登場し、家族という物について考えさせる一編である。

他の短編もトリックと創意に富んで、楽しめる一冊だった。











ペース/加納朋子
06/1/14

 

入江駒子シリーズの三作目。中編が二作の構成になっている。

前編「スペース」駒子が瀬尾に差し出した手紙にはドッペルゲンガーのような謎が書かれており、それをいつものように瀬尾が解いてみせる。謎解きについては言及を避けるしかないが、どうも謎の設定としては弱いような気がする。どうということのない会話や細やかな心理描写がいつものように楽しめる作品ではあるのだが・・・。

そして後半の「バックスペース」では語り手が駒子の友人になっている。少し冷たい視線で入江駒子を描写しており、優しいだけではないやや辛辣な世界だが、偶然が重なって幸福な結末へと雪崩れ込んでいる。因果が巡り巡って、「ななつのこ」と少しずつ時間が重なりながら、今篇に至ったという感じだが、ここまで偶然が重なって良いものか(笑)。ミステリーではなく、優しく気持ちよい恋愛小説として読むべきなのだろうと思う。













東京バンドワゴン/小路幸也

東京の下町で古本屋を営む4世代8人の大家族を舞台に、ややミステリー的な興味をからめながら涙と笑いの人情ドラマが展開される。書評でホームドラマの雰囲気と書かれているが、本編にホームドラマへの献辞がある。物語の語り手はすでに亡くなっているおばあさんの幽霊だが、さしずめ京塚昌子だろうか。

この一家、79才に店主は絵に描いたような頑固者、60才になる長男は「LOVEだねぇ」「LOVEじゃないねぇ」が口癖の、非常識だか人の好いロケンローラー、その娘はシングルマザー、ロケンローラーが愛人に生ませた子供・青も引き取っているし、なかなか訳ありの家庭ではあるが、それぞれに仲良くやっており、微笑ましい。

古本屋に幼い子が百科事典を二冊持ち込んでは下校時に持って帰るのはどういう訳か?、青(ハンサムでプレーボーイらしく見えるが、根は誠実)の押しかけ女房の隠された事情、老人ホームから消えた女性の行方など、ほんのわずかな謎がハートウォーミングな人情小説の中に混ざり込んでいる構造は、少し雰囲気は違うが加納朋子のミステリーを思わせる。度重なる偶然によるハッピーエンドは都合が良すぎるような気もするが、この幸福な読後感のためには目をつぶろう(笑)。

シングルマザー親娘が出生を巡って喧嘩した後、孫娘に「おまえのぉ、その可愛い顔もすらっとした身体もきれいな心も、すべてが藍子(母)と、花陽(娘)の見えないお父さんの二人のLOVEでできているのさぁ。LOVEこそすべてだねぇ」というロケンローラーのせりふが特に印象に残る。イメージとしては内田裕也的だが、もっと良い人そうだ(笑)。








ホームタウン/小路幸也

主人公・行島柾人はデパートのトラブルシューターをしている青年で、両親が殺し合いの果てに死亡しており、自分たちに流れる人殺しの血を恐れて妹・木実と離れて暮らしている。

妹から結婚を知らせる手紙が届き、喜んだのも束の間、行方不明になっていることが判明。そして、逃げるように去った故郷を訪れ探索に駆け回る羽目に・・・。

デパートの顧客のトラブル解決が主人公の任務であり、かつては日米を股に掛けて活躍し世間の裏側にも通じたフィクサー・カクさんが顧客担当部特別室の上司かつ養い親で、探偵術のイロハを柾人に教え込んだという設定は、明らかに「ストリートキッズ」など、ニール・ケアリーを主人公とするシリーズ物(ドン・ウィンズロウ)の模倣だろう。

カクさんや、少年時代に世話になった元ヤクザなど、頼りがいのある助っ人がフォローしてくれるし、何か後ろ暗い調査仕事をしている小学校時代の級友が(文字通り)援護射撃してくれるし、随分都合がいいなぁとは思うものの、この連帯感は悪くない。

優しくて皮肉っぽくて頼りがいのあるカクさんや、下宿先のばあちゃん(デパート内部の鑑査仕事で主人公が不正を暴いた末に、自殺した男の母親)や、オールドタイプのやくざ草場などの造形が気持ちよく、センチメンタルでハートウォーミングなハードボイルドである。

それにしてもこの作家、三作読んだどれもが、作風は違うが家族や故郷がモチーフになっているなぁ・・・。








み火 Fire's Out/日明恩
06/2/20

 

消防士として殉職した父親に反感を持ち、楽して得する地方公務員であるために消防士になったと公言する大山雄大を主人公にした青春ハードボイルド第二弾。口ではそう言いながら、熱い消防魂を持っている痛快な奴なのだ。

前作「鎮火報 Fire's out」は不法滞在外国人問題に絡む放火の謎を解くものだったが、今回はさまざまな親子がテーマになっている。

老人の焼死事故が続発する中。漏電やショートによる失火、趣味の品々が助燃剤となっていることなどが共通し、雄大と、雄大の不倶戴天の敵(笑)・仁藤要は不審を感じていた。現場を訪ね歩き、どうやら失火に見せかけた自殺の輪があるらしいことに気付いた雄大が、事件の真相に迫っていく。

雄大の父親を尊敬している先輩・仁藤要は、体力・判断力・行動力を兼ね備えており、かつてはレスキューサイボーグの異名を取った優秀な消防士である。現場の事故で内勤に回っているが、現場への復帰を望んで常に精進を怠らない。雄大にとって目の上のたんこぶなのだが、深いところで心が繋がっていて、この二人の友情も読みどころだ。

徐々に明らかになる事件の真相が切ない。謎解きの面白さと、青春小説の面白さがない交ぜになっており、さらに社会派的なメッセージも含まれて、実に盛りだくさんな内容である。










落下する緑/田中啓文
06/6/2

ジャズミュージシャンのコンビが、音楽の現場で起きるさまざまな謎を解く連作ミステリー。光文社の文芸オーディションで鮎川哲也の選に入ったデビュー作を連作化したもので、編集側からギャグもグロもダジャレも禁止という命が入っていたらしいが、その割りにきちんとお馬鹿な語呂合わせが入っていたりする(笑)。

語り手はクインテットを率いるトランペッター唐島で、彼のクインテットの一員である永見緋太郎が探偵である。唐島は、ややフリージャズ寄りのサックスを吹く永見を可愛がっているが、「笑酔亭梅寿謎解噺」同様に、この作家は師弟コンビを書かせると上手いものだ。比較的常識的な唐島に対して、非常識な天然ぶりを見せつつ頭が切れて感受性豊かな永見のキャラも楽しい。

第一話だけは美術をネタにした謎解きだが、他の作品は、非常識・傲岸不遜・嫉妬深さなど、人並み外れたキャラクターを持つ音楽関係者を上手く登場させて、ジャズの雰囲気が濃密なユーモアミステリーになっている。










やっつけ仕事で八方ふさがり/ジャネット・イヴァノビッチ
6/2/7

リストラされたバツイチ三十路女・ステファニーがバウンティ・ハンター(保釈保証強制執行人)に転職。まわりを迷惑の渦にたたき込みながら、ドタバタとかけずり回るユーモア・ハードボイルドの八作目である。

今回ステファニーは、隣家に住む老女メイベルから、孫のイーブリンが娘のアニーと共に行方不明になっている件について相談され、慣れない私立探偵仕事に乗り出す。イーヴリンは、離婚したDV夫との間で児童監護保証契約をしており、面接権を反故にすると違約金を支払わなければならず、卑劣な元夫がメイベルを脅かしているのだ。

イーヴリンの行方を捜し始めたステファニーに、元夫のバーの共同経営者だという変質者(戦争ゲームマニア)アブルッツィが威しをかけ始め、その部下の不気味な着ぐるみウサギに追い回される羽目になる。

毎度ドタバタな展開なのだが、今回はステファニー自身の活躍が余り見られず残念。わりあい悲惨な話だし、ステファニーは二人の頼れる男に全てを任せてしまった形だし、不完全燃焼の感だった。すっとんきょうな弁護士が笑えたが(笑)。








九死に一生ハンター稼業/ジャネット・イヴァノビッチ

バツイチ三十路バウンティハンターのステファニー・プラムがドタバタと活躍するユーモア・ハードボイルドの第九弾。ドジばかり踏んでいるステファニーだが、かつては街の不良少年だった刑事ジョー・モレリや、凄腕バウンティーハンターのレンジャーなど、強くてセクシーな男にもことかかず、彼らのサポートを受けながら毎度事件を解決している。

ステファニーのいとこのヴィニーは保釈保証をなりわいとしていて、査証保証という事業に乗り出すも、保証したインド人が失踪。これを探し出すべく奔走するステファニーに、ストーカーの手が伸びる。手がかりが先々で殺され、ステファニーには不気味な花が贈られ続けるのである。

今回は、ヴィニーの事務所で働くルーラ(元娼婦の大女)とコニー(ヴィニーの秘書)が大活躍で、三人でラスベガスに乗り込み、ハチャメチャをしている。コニーがあそこまで脳天気だったとは・・・。ステファニーのためにレンジャーの用意したボディガードたちが次々にトラブルに見舞われているあたり、このシリーズの真骨頂という感じだ。

ただ、九作も続くとどうしてもマンネリの感は否めない。第一作目のような衝撃はさすがに少ないのが残念。


バウンティーハンターは現代アメリカの賞金稼ぎである(正式には保釈保証強制執行人?)。保釈保証会社に保釈金を立て替えて貰った容疑者が、定められた期日に裁判所に出頭しなかった場合、保証会社は保釈金を没収されることになる。そこでバウンティーハンターの出番になる訳で、容疑者を逮捕して連行すると保釈金が払い戻され、そこから歩合で報酬が支払われるのである。保釈保証会社にとっては全額失うよりは遙かに良いのだろう。一般人に逮捕権が認められているというのが面白い。








上空からの脅迫/S・L・トンプスン
06/2/27

冷戦下、東西ドイツの軍事境界地域を偵察・諜報活動のために走り回った「奪還チーム」の名ドライバー、マックス・モスの活躍を描いた三部作謀略カーアクションの続編で、足を洗ったマックス・モスは、今回はイスラム過激派のテロとバーチャルな空中戦を行うことになる。

PLOとイスラエルの幹部(親友同士)が、無益な流血を終わらせるためにイスラエルが極秘開発した核兵器を盗み出し、アメリカを脅迫する計画を立てる。マックス・モスは退役後、フロリダで自堕落な日々を送っていたが、元空軍パイロットと親しくなり、飛行免許を取得していた。フリーランスの諜報員としてスカウトされたマックスは、隠れ蓑として父親が経営する電子兵器会社に入り、図らずもバーチャルに遠隔操作する偵察機を軍部に売り込む羽目になるが、それが今作の主要なポイントになるのだった。

冷戦後の世界を盛り込んで新工夫ではあるが(冷戦崩壊以前に書かれたものだという)、なんとなくお手軽感が否めない。マックスがバーチャル飛行する場面は手に汗握るが、どうしても体当たり感に欠ける。2〜3時間興奮に身を置いて、読み終えたらポイ、という感じの出来で、重厚さが足らないように思えた。諜報部の女性との交際も、情事を書き入れるためという感じがしなくもない。


















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