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SF・ファンタジー2006



薄紅天女/荻原規子    風神秘抄/荻原規子    エンド・ゲーム/恩田陸
黄泉びと知らず/梶尾真治    時の“風”に吹かれて/梶尾真治
嘆きのサイレン/茅田砂胡    金春屋ゴメス/西條奈加    わくらば日記/朱川湊人

お師匠さまは魔物!/ロバート・アスプリン



紅天女/荻原規子
06/1/5

日本神話や古代史をモチーフに健気な少年少女を描くファンタジーシリーズ、勾玉三部作(「空色勾玉」「白鳥異伝」)の掉尾。

平安時代、坂東の竹芝を治める長の息子及びその甥で、同年の藤太(とうた)と阿高(あたか)は、精神的に強く結びついたおり、二連と呼ばれ近所の娘たちのあこがれでもある。阿高の父親は、蝦夷征伐に駆り出された長の息子で、蝦夷の巫女との間に阿高をもうけるが、敗戦の濡れ衣を着せられ処刑されていた。蝦夷の巫女は勾玉を伝える血統であり、災厄に見舞われる都のためにも、帝はその力を必要としていたが、阿高の母はこれを拒んだがために、帝の一族を狙う悪霊が跳梁跋扈しているという設定である。

巫女姫の力を得ようと、蝦夷の一族が阿高を訪れ、連れ去るが、この時に阿高は己の出生を知り、なかばやけになっていた。阿高の中には母の巫女姫が潜み、時折藤太の前にだけ現れて予言を為している。「白鳥異伝」でヤマトタケルに妄執をみせた母に似ているような気もするが、あんなに気味の悪い母ではない(笑)。

藤太は、帝のために阿高を探しに来た坂上田村麻呂の助力を得て、阿高を救出。すべてのトラブルが自分に収斂しているらしいことに、阿高は、都へ行って真相を明らかにすることを決意する。

一方、帝の娘で跳ねっ返りの苑上(そのえ)が登場し、様々な行く立てから阿高らと行を共にすることになる。健気な少年少女の活躍という、三部作共通のパターンだ。阿高も苑上も、自分自身にはぐれ者的なものを感じており、その辺でも相寄る魂なのだろう。

阿高は不思議な能力など必要とせず、生まれ育った坂東へ帰りたいと思っているし、藤太は、超常的な力など持たない普通の阿高に戻してやりたいと願っている。このあたりの絆が切なく、熱い。

悪霊の跳梁にどう収まりを付けるのか。悪霊の正体と、跳梁の理由と、物語は意外な驚きを孕みつつ佳境へ向かう。悪霊の悲しみなども描かれ、情感のある終盤である。

三部作の全てに共通するが、主人公の少年少女たちは、育ちと違う出生の秘密を持っていたり、生まれながらに重い使命を担わされていたりする。本作の主人公は青年になりかかっているが、前の二作ではもっと幼かったりすることもあり、やや過酷かなぁと思う。それ故に感動的な物語になるのだろうが・・・。

この物語の背景として、降臨した神の一族である光(かぐ)と、地生えの一族である闇(くら)の葛藤があるが、単純な二元論では割り切れず、かなり複雑な世界観になっている。一応児童書の分類になっているが、ある程度読者の年齢を選ぶのではないだろうか。 ともあれ、健気な少年少女(特に少女)の活躍に共感を覚えるシリーズだった。












神秘抄/荻原規子
06/3/2

日本神話をモチーフにしたファンタジーシリーズ「空色勾玉」「白鳥異伝」「薄紅天女」の勾玉三部作からは離れた独立長編であるが、多少の設定は引いている。

坂東武者の庶子・草十郎は、子供の頃から笛に馴染み神韻とも呼べるような響きを持っているが、人には聞かせず、もっぱら自然と同調して吹いてきた感があり、孤独で狷介に育っている。

平治の乱に源義平の郎党として参加した草十郎は、快男児・義平の性格に魅了され、持てる力を振り絞って戦うが敗残、逃亡の途次、まだ少年の頼朝を助けようとして、盗賊一味に捕らえられる。この首領が変わり者で、草十郎を助け、一味に引き込んでしまうのだ。

都で源氏の一族が梟首されていることを知り、たまらぬ思いの草十郎だったが、処刑の河原で鎮魂の舞を舞う傀儡女・糸世(いとせ)と出会う。異界への門を開く霊的な舞に、いつしか草十郎の笛も同調するのだった。

勾玉三部作の定石通りで、狷介な少年と小生意気な少女というパターンはありがちだが、孤独な魂同士が出会う一瞬である。糸世は遊君の長者に育てられたという設定で、放浪の遊芸民、後に登場する竹細工師、木地師など、いかにも「道々の輩」的な感じがして、魅力的だ。

二人の力が合一によって奇跡が起きることに目を付けたのが後白河である。今様狂いの権力者は芸能の力をよく弁えていて、二人を利用しようとするのだ。権力者に恩を売っておこうと思った草十郎は、糸世を説得し、二人で超絶の舞を演じるが、ここで破綻が生じ、糸世は異世界に飛ばされてしまう。糸世を取り戻そうとする草十郎の旅が始まり、ここからがメインストーリーになる。

旅の相棒となるのが、すべての鳥類に君臨するカラス・鳥彦王で、「空色勾玉」に登場した鳥彦の血を引いているのだろう。鳥彦と同じように、生意気でおっちょこちょいで優しいカラスである。鳥彦王は、自分の話す言葉を聞き取れる草十郎を、帝王学修行のパートナーとして指名していたのだ。二人の友情が気持ちよく、切なく、作中の読みどころのひとつである。

草十郎と鳥彦王の絆を推測し、糸世が後白河法皇への手紙を鳥彦王に託すシーンがあるが、これは「誰も知らない小さな国」の中で、おチビ先生がせいたかさんへのメッセージをコロボックルに託すシーンを思わせた。作者もやはり愛読者だったのだろうか(笑)。

竹取やらイザナミイザナギやら、古今の幻想譚を取り込んで、手に汗握るファンタジーである。笛の音や舞の玄妙さなど、神秘的な芸能の設定も魅力的だ。少年と少女の成長譚でもあるのだが、主役は少年であり、少女は添え物の感がある。どちらかに重点を置かなければならないのは致し方ないのかもしれず、「白鳥異伝」では、勾玉を巡る遠子の旅がメインだったことでもある。

この世界観は、やはりジブリ的なものを感じさせる。少女を救う少年、悪辣な権力者、頼りになる相棒など、これは絶対にジブリのアニメになってもいいと思うのだが。

ところでこの作品は、現在NHK-FMの「青春アドベンチャー」でラジオドラマ化され、放送されているが、原作を読んでしまっていると、違和感を覚えざるを得ない。神韻のはずの笛が安易に楽曲になっていたり、話を端折りすぎていたり・・・。神事と関わる芸能の物語なのであるから、もう少し神秘性が欲しかったと思う。










エンド・ゲーム/恩田陸
06/6/27

得意な能力を持つが故に、権力に利用されることを恐れ、ひっそりと暮らしてきた常野一族を描く常野物語シリーズの第三弾。しかし第一部の「光の帝国」とはだいぶ趣が変わっていて、今回はインナースペースを舞台にしたサイコホラーの感触。

敵である「あれ」と遭遇しては、「裏返し」たり「裏返され」たりしている一族の夫婦は、同族同士の親を持つためにより強力な力を持つ娘が生まれたことを恐れ、娘が「あれ」と遭遇するのを少しでも遅らせようと、父親は蒸発している。

女手一つで娘を育てた母親はキャリアウーマンで、会社の研修旅行先で突如深い眠りに陥る。慌てた娘は、母は「裏返され」たのかと考えるが、一族の洗濯屋に「しまわれた」ことが徐々に明らかになってくる。

平和を愛するはずの常野一族だが、ここではやたらと殺伐としている。のべつ侵略者の「あれ」と戦っているようだし、別の能力を持つ「洗濯屋」は人の記憶を操り、過去を洗って、真っ白にしてしまうのだ。己のアイデンティティーが一瞬にして失われる恐怖が伝わってくる。

「あれ」にまつわる謎が明らかになる過程は、ミステリー作家でもある恩田陸らしいどんでん返しである。うーん、それにしても、あの平和な一族の物語がこうも変質するとは(笑)。










時の“風”に吹かれて/梶尾真治

カジシンお家芸の時間物、ドタバタ、ホラー、ショートショートなど、さまざまな作品が詰め込まれた短篇集。あちこちに発表した物を再編集したらしく、作風がバラバラだが、だからこそこの作家の多才さが浮かび上がった気がする。以下、印象に残った何編か。

「時の“風”に吹かれて」著者お得意の時間物。亡き叔父が描き続けた美しい女性に憧れた主人公は、タイムマシンを発明した友人に頼み込み、火災で亡くなった彼女を助けようとして…。なかなか味な結末である。

「時縛の人」あらゆるエネルギーを使えるタイムマシンの発明者が、戦闘中のアッツ島に赴いた時、エネルギー不足に陥るが、戦死者の残留思念エネルギーを燃料とする事で脱出を図る。しかし、時に縛られた残留思念から脱出したい霊たちが過剰にあふれかえってタイムマシンは爆発、発明者本人が時縛霊となってしまう(笑)。

「月下の決闘」冴えない中年サラリーマンが降って湧いた幸運のように婚約した美しい女性は超絶的な格闘技・裏バレーからの脱け舞だった!。闇エアロビ、なども登場するバカバカしいショートショート。

「わが愛しの口裂け女」瀕死の父親が息子に語る母との出会いと別れ。口裂け女だったことを父に知られて母は出て行ってしまうが、それでも互いに愛していたことが瀕死の父親から息子に語られる。感傷的な幕切れの、何とバカバカしくも美しく切ないこと・・・。名人芸だなぁ。口裂け女をネタにしつつ、雪女のイメージも感じられる。










嘆きのサイレン/茅田砂胡

美貌で豪快でエネルギッシュで傲慢で有能な戦士であるクーア財閥令嬢と、ヘラヘラしていて侠気があって正義漢でこちらもメチャクチャ強い宇宙海賊ケリーの活躍を描いた「スカーレット・ウィザード」、仮想中世ヨーロッパ風世界を舞台にした戦国時代ファンタジー「デルフィニア戦記」の登場人物(超常能力を持つ、浮き世離れしたあぶない少年たち(笑))を統合させた「暁の天使たち」に続くSFシリーズ「クラッシュ・ブレイズ」の第一弾。

先代の連邦主席マヌエル一世から宇宙戦艦の遭難が多発する宙域を探ってくれないかと非公式に頼まれて出発したクーア怪獣夫婦。ケリーの愛機パラス・アテナの感応頭脳“クレージー・ダイアン(速く飛ぶためなら人命無視も厭わないアブナイ人工頭脳(笑))”までが「歌が聞こえるわ」と脳を侵され、自分たちまで遭難しかかる羽目になる。

ダイアナのような力を持ちながらそれを統御する知恵がなく、悪意が暴走する感応頭脳の仕業だったが、更には人間まで洗脳するような力を持っているため、これを放置しておくことは出来ず、対抗するための力(歌)を黒天使ルゥに借りることになる。

破滅と豊饒と、両方の力を持つルゥの歌の魅力が作中の白眉だろう。己をも毒で侵してしまうという両刃の刃であり、地上の作物を刈らせてしまうような力も持っている。暴走する感応頭脳を草履虫と名付けたダイアンだが(笑)、この草履虫の破滅のサイレンに対抗するのがルゥの豊饒の歌であり、うっとりと聞き惚れてしまう蠱惑とも戦う羽目になる怪獣夫婦なのである。

昨今、ミステリーやホラーで純粋な悪意がよくモチーフになるが、これを未来SFに置き換えると「嘆きのサイレン」になるだろうか。テンポ良く、適当に笑わせ、「仲間がいない孤独」などをちょっと考えさせるといういつものパターンだが、「暁の天使たち」とどこが違うのかという感じもある








黄泉びと知らず/梶尾真治
06/5/12

 

死者の復活による家族の思いや混乱をセンチメンタルに描いた傑作「黄泉がえり」のアナザーストーリー短編を収録した文庫オリジナル短篇集。

表題作以外は可もなく不可もなしと言った感じだが、表題作だけはさすがに良かった。キャンプ中の事故で子供をなくした元夫婦が、黄泉がえりの噂を聞いて、息子のへその緒を携えて熊本に向かうのである。詳細は書かないが、ラストシーンが美しくて切なくて、ずるい!あざとい!と思う(笑)。

その他「見知らぬ義父」という非SFのショートショートが上手いなぁと思う。枷をはめ続けて来た人生に嫌気が差し、退職後に不良じじいになってしまった義父と、そうならないようにガス抜きしている婿が、笑えてしみじみする。








金春屋ゴメス/西條 奈加
06/6/13

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。近未来の北関東の一画に、国として独立したバーチャルな江戸があるという設定で、江戸から日本へ脱出した父親の求めに応じ、幼い頃の記憶を取り戻すために江戸入りした青年・辰次郎を主人公にしている。

「江戸」は、元々は金持ちの老人が道楽で作り始めたものだが、追随する金持ちが現れたり、自然との共生に惹かれて移住するものが出たりと、徐々に大きくなっていったものらしい。このあたりは井上ひさしの「吉里吉里人」や、藩邸内に東海道五十三次の宿場町を作ってしまった尾張藩主・徳川宗春がヒントになっているのではないだろうか。

「江戸」への入国は厳重に管理されており、抽選でもなかなか当たらないものだが、辰次郎には特別な事情があり、裏から手を回して入国が許されている。辰次郎の落ち着き先は出入国を管理する長崎奉行で、この奉行こそ金春屋ゴメスの異名を取る、容貌魁偉で凶暴な女親分である(笑)。その外貌はスターウォーズのジャヴァ・ザ・ハットを想像させたが、スター・ウォーズからのパクリだろうか(因みに落語家の鈴々舎馬風師匠もジャヴァ・ザ・ハットに似ている(笑))。

ゴメス親分の捕り物に参加する辰次郎だが、このあたりは何やら鬼平犯科帳なんぞを思わせるし、ゴメス親分のかっこいいこと。子分たちにとっても凶暴な親分だが、悪を憎む心はひと一倍である。

「江戸」に向かう船で辰次郎と一緒だった松吉は、時代劇マニアが高じた末の「江戸入り」である。情けない役回りを振られているが、軽薄ながら良い奴でもあり、辰次郎との友情が快い。何か阿部サダヲが演じたらぴったり来そうな気がする(笑)。

辰次郎の自分探しの旅でもあり、パニック物でもあり、友情の物語でもあり、いろいろな要素を詰め込んだ、なかなか読ませる物語だった。

この大賞の受賞作は、沢村稟や酒見賢一もそうだが、魔法使いや妖精や怪物が跋扈するようなファンタジーより、ヴァーチャルな世界での現実的な物語を書く作家が多いような気がする。そういうものこそ、設定に現実感を与えるのが大変ではないかと思うのだ。まぁ、病弱な若旦那と妖が活躍する愉快な「しゃばけシリーズ」の畠中恵もこの大賞出身ではあるが・・・。










わくらば日記/朱川湊人
06/3/23

不思議な能力を持つ姉と過ごした昭和30年代の下町の日々を、年老いた妹が回想して語るノスタルジック・ファンタジー。妙に上品な女子学生風の語り口は「リセット/北村薫」を思わせる。

活発なワッコの姉・鈴音は病弱な美少女で、気持ちも優しく繊細だが、人や場所の記憶を見ることが出来る不思議な能力を持っている。この能力にからむ様々な事件を、初老と思われる年齢になった妹が回想しているが、貧しいけれど幸福だった時代、美しくはかない姉との日々を、何とも切なく郷愁的に語っている。

「追憶の虹」物語の導入部であり、個々の登場人物の紹介編でもある。妹ワッコの友人の弟がひき逃げに遭い、交番のおまわりさんに憧れていたワッコは、浅はかにも姉の能力を使えば関心を惹くことが出来ると思い、その事件を解決させるが、その能力に目を付けられ、警視庁の刑事から過酷な命令をされてしまう。異能のもたらす恐ろしさを印象づける一編だ。 その他「夏空への梯子」「いつか夕陽の中で」「流星のまたたき」「春の悪魔」。特に「いつか夕陽の中で」「流星のまたたき」の二編が切なくて印象的。

それにしても、一九六三年生まれの著者が、よく昭和30年代の下町の風景を描き出したものだ。姉には幸福な未来が待っている訳ではなさそうで、陰惨な事件も出てきたりしているが、全体の雰囲気は娘たちの明るさと希望に満ちていて楽しい。










お師匠さまは魔物!/ロバート・アスプリン
06/3/29

ふざけて幼稚なタイトル、漫画のような表紙からやや敬遠していたが、面白いという評判もあるので手を出してみた。ドタバタファンタジーである。

うだつの上がらない魔法使いの弟子スキーヴ(泥棒に役立てようと目論んで魔術を学んでいる)に、師匠ガルキンが魔物を召喚する技を見せていたところ、この世界や異世界までを支配しようと考えている巨悪の子分によってガルキンが殺されてしまう。

召喚された魔物は実は異世界の魔法使いで、弟子を驚嘆させる目的でガルキンと交互に魔物を演じていたのである。現れた魔物は、師匠のいなくなったスキーヴを仕込んでやると、押しかけ師匠になってしまう。押しが強く減らず口叩き、しかしやる時はやる的な頼りがいのあるオゥズに辟易しながら、頼りない小僧スキーヴは、いやいやながら巨悪を倒す旅に付き合うことになり、珍道中が始まるのだった。

タフなベテラン、頼りないが見どころのある若僧、これにからむセクシーな女魔物とくれば、何やら警察物やサスペンスやハードボイルドなどでお目にかかる設定のような気がする。映画「スティング」などもそうだろう。そう、これはハードボイルド・ファンタジーなのである(笑)。

ギャグを散りばめたユーモア・ファンタジーらしいが、翻訳でどこまで伝わっているのか疑問。もっと笑わせてくれても良いような気がする。各章に思わせぶりなエピグラムがあるが、 これは作者の創作らしい。ダース・ヴェイダーまでが登場しておかしい。




















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