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少年少女小説・YAノベル・児童文学2008





階段途中のビッグノイズ/越谷オサム   2/3

ほどけるとける/大島真寿美



階段途中のビッグ・ノイズ/越谷オサム

主人公の神谷啓人はやや気の弱い、まじめなロック少年である。所属していた軽音楽部の上級生が覚醒剤で逮捕されるという不祥事があり、軽音楽部の廃部が決定。思考停止のまま後かたづけをしているところに、馬鹿な上級生に嫌気がさして幽霊部員になっていた、ちびで短気の九十九伸太郎が「このまま廃部でいいのか」と声をかけてくる。二人で校長に掛け合いに行き、ある程度の管理と制約を受けることで一応の存続が許され、成果を出すための二人の奮闘が始まるのだった。

白い目で見られながらの勧誘活動は、やがて、超絶テクニックを持ちながら仲間との軋轢でバンドを止めている嶋本勇作(天衣無縫でマイペースなわがまま男)と、ヒステリックな顧問に嫌気がさして吹奏楽部を止めたパーカス担当の岡崎徹(悠然とした、気の良い大男)となって実を結ぶ。共に音楽の楽しさに憑かれた少年たちである。

結末は多分分かっている。「青春デンデケデケデケ/芦原すなお」「ビート・キッズ/風野潮」「ぎぶそん/伊藤たかみ」等の音楽ヤングアダルト小説同様、最終的には演奏が成功して幕が閉じられるのだろうから、そこまでにいかに読ませるかがこの手の小説のポイントだろう。この作家は、ファンタジーノベル対象を受賞した「ボーナス・トラック」でもそうだったのだが、どこか不器用であか抜けない感じがある。それがこの場合良い方に利いているのかもしれないが、やはりもどかしい(笑)。

強硬に廃部を主張した森淑美という強権な若い教師がいる。逮捕された上級生の担任だった女性で、ことさら厳しい管理を求めてヒステリックに描かれているが、そもそも逮捕者を出したクラスの担任が、担任を外されもせず、このように大きな顔をしていられるものだろうか。この厳格さには、上級生の喫煙を見逃し、更には甘い雰囲気に絆されていたからと言う後悔があるのだが、それを許容する校長(とらえどころがないが人物的に大きい)もどうかと思う。せめて「罪のない生徒を憎むべきではない」くらいは言って欲しいものだ。

誰もなり手がなかった軽音楽部顧問を引き受けてくれたのがカトセンで、無気力で存在感薄く、授業時間は学級崩壊しているような教師だが、良い味を出している。森淑美なんぞよりこっちにポイントを当てれば良かったのにと思う。

途中、首をかしげるような展開もあるけれど、読後感の良いバンド青春小説である。こういう小説を読むと音楽小説っていいなぁと思う。



(2008/02/03)











ほどけるとける/大島真寿美

高校中退の中途半端な日々からの成長を描くYA小説。

学校で浮き上がってしまっていたたまれなくなり高校を中退した美和は、パン屋やレストランやキャバクラだののアルバイトを経つつもやはり長続きがせず、祖父の経営する風呂屋大和湯の手伝いをしている。

美和と、けったいな客やら出入りのリネン屋の小父さんやらとのやりとりがゆるくゆったりと交わされ、それはそれでぬるま湯のようで心地よい。が、立ち止まったままで、未だ自分の未来を切り開けずにいる美和の不安もまた伝わってくる。こういう、現状に対する居心地の悪さはあらゆる人間が持っている共通項のような気がするのだがどうなのだろう。
『ものすごく恐かった。
 一生どこへも行けない気がして。』

という一節にリアリティを感じる。

中学生の生意気な弟・智也は、大事なことはすべてRPGから学んだと豪語するRPGマニアである。そして立ち止まって恐怖する姉に「姉ちゃんはおんなじステージを抜けられないんだ」と説教するのであった。
『知恵もなければ勇気もないやつの典型だな、と智也が言った。姉ちゃん、悪いことは言わない、大和屋でバイトするくらいなら、RPGをやって知恵と勇気の使い方を学べ。』
なんと説得力があるのだろう(笑)。

常連客の佐紀さんとの関係も面白い。漫画の原作者をしている、三十代後半と思しき見るからにおばさんおばさんした女性で、常に締め切りを破りそうになっては担当編集者の君津とバトルを繰り返しているのだが、意外と細やかな気遣いをする人なのである。町で見かけた美和を自宅に引っ張り込み、挙げ句に酒盛りとなるシーンの楽しそうなこと。和やかで微笑ましくてとろりとして夏の夜の気持ちよさを描き出しており、作中の白眉かと思える。そしてなんでもない描写に魅力があったりする。子供の頃のことを、風呂屋の湿った暖かい空気と共に思い出している幸福感など、いいなぁと思う。

同じ作者の「香港の甘い豆腐」同様、やや立ち止まっている人間が歩き始める小説で、小さな成長に共感し、とても気持ちのいい読後感がある。設定としては、高卒後、行き所がなくて祖父のスタンドで働いている青年がアメリカ横断の旅をして成長する「進路はディキシーランド/樋口修吉」に似ているが、アメリカ旅行などと言う大仕掛けやギャンブルのはったりなどはなく、ごく普通の日常から少しだけ進歩する主人公にとても好感が持てる。














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