HOME
Libro2009インデックス




 

李世民/小前亮

唐の二代皇帝太宗の若き日である李世民が、唐建国に奔命する姿を描いた大作中国史小説。

隋末、皇帝楊広は国務を放擲して南方で享楽の日々を送り、各地に群雄が割拠している。王族でもある太原留守の李淵(唐公)は、二人の良くできた息子に促され決起し、長安を目指す。

面白いのは、李淵自身は臆病で優柔不断に描かれており、嫡男李健成、次男李世民の方が指導者として優れているという設定である。李健成は温厚篤実で堅実で内政に才を発揮し、李世民は知略才略優れ、勇気と誠実さを併せ持ち、戦上手として父の覇業を支えるのだ。しかし、良くできた兄弟であることが後に悲劇を生むことにもなる。

長安を取ったからといって決して覇業がなった訳ではない。盗賊、農民あがりなどの武将が各地に盤踞し、これを従えてこその中原統一である。李密、王世充、竇建徳(とうけんとく)など、魅力的なライバルと鎬を削る戦の場面がやはり面白いが、彼らのちょっとした人間的魅力を描くシーンもホロリとさせる。ただ、しぶとく生き延びたかのように見えるこれらの武将の最後がわりとあっけなく終わっていくのはちょっと物足りなかった。

本書の魅力は何と言っても李世民のキャラクターだ。彼の律動的な足音がたびたびモチーフとして描かれるが、軍事的に危機に陥り、沈み込む唐朝廷に李世民の足音が響くだけで、がらりと場の雰囲気が変わるのである。何とも爽快痛快なヒーローだ。

関係ないが、李世民の名前を知ったのは「西遊記」においてである。太宗が、処刑された竜王の恨みを買って地獄へ引きずり込まれると、亡者が「世民が来た」とはやし立てる場面があるのだ。この亡者たちは、唐建国の戦いで敗れた者たちだったのかもしれない。竜王処刑の手配をする役人魏懲も本書「李世民」に登場しているが、直諫を辞さない硬骨漢として描かれている。





HOME