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Libro2009インデックス




アラスカ物語/新田次郎

明治時代にアラスカに渡り、先住民のリーダーとなったフランク安田の生涯を描く歴史サバイバル小説である。

安田恭輔は宮城県石巻市の医業の家に生まれるが父の急死により没落、15歳で三菱汽船の給仕となり、その後、外国航路の船員、アメリカの農園の労働者、沿岸警備船ベアー号の見習いなどへ職を変えていく。

持ち前の聡明さでベアー号では船長などに可愛がられるが、乗組員の嫉妬と差別に苛まれることに。氷に閉じ込められて食糧不足に陥ったベアー号を救うべく、交易所のある町までの救援要請に一人で赴く中、昼のない暗さとブリザードと狂的なオーロラにおののく場面が冒頭に描かれているが、さすが山岳小説の大家で、非常に迫力がある。

フランクは文字通り決死的な冒険行を成功させると、もはやベアー号に戻る気にはなれず、交易所でイヌイット(作中ではエスキモーと表記されているが「自分たちではイニュートと言う」との説明がある)の生活に溶け込み、言葉や狩猟を覚えていく。

白人密漁船の乱獲により鯨やアザラシが激減し、またはしかの流行によってイヌイット社会は滅亡の危機に陥るが、「日本から来たエスキモー」として、その能力の高さを買われ、頼りにされてしまうと、新天地を求めるべく鉱山師のパートナーとなり、ゴールドラッシュに湧くアラスカの地を踏破して安住の地を求める苦難の旅を続けるのだった。

イヌイットのリーダーとして生活の面倒を見、エスキモーのモーゼと呼ばれたりして業績を高く評価されても、戦時中には強制収容されるなどあまり報われることのなかった生涯の感もあるが、頑固で負けず嫌いな少年が故郷を出て大業を成す、痛快な成功物語である。型破りな生涯の面白さにかまけて人間描写が多少おろそかになったような気もするが、かつてこんなにスケールの大きな日本人がいたのだなぁと、感慨を新たにした。


石巻は父の出身地であり、フランク安田の偉業については以前から気になっていた。この小説も二十年くらい前から知っていたのだが、何故かなかなか読む機会がなく、やっと読むことが出来たものだ。







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