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Libro2009インデックス




蛇衆/矢野隆

室町中期の九州において、蛇衆(じゃしゅう)を名乗る傭兵集団の凄絶な戦いを描いた時代小説。小説すばる新人賞受賞作である。

応仁・文明の乱の終わった頃、筑後と肥後の国境地帯を領する鷲尾嶬嶄(わしおぎざん)は、領地争いを繰り広げる国人の中で頭一つ抜き出た存在だが、狂気といえるほど冷酷で、巫女に率いられる農民集団を滅ぼした時、いずれ蛇となった息子に食い殺されると予言され、我が子を殺すよう配下に命じてしまう。そしてこれが後継争いから始まる内紛の種になるのである。

超絶的な殺人技を有する蛇衆の面々は、それぞれに暗い過去を持っているが、仲間を信頼し、戦乱の中で命を的に稼いでいる。当初、鷲尾家に対する側に雇われていたが、凄腕を買われて鷲尾側に雇われると、奸計の渦巻く中、鷲尾側に利用され、修羅の戦いを余儀なくされることに。

スピーディーな戦闘描写は残虐なはずなのにそれを感じさせず、まるで武侠小説のような爽快感をもたらす。仲間を思う面々の思いは熱く、悪役は悪役でいかにも憎々しい。形は良く整っているのだが、どうしても今ひとつ薄味感がするのは改行の多い軽い文章のせいか、スピーディーすぎるせいだろうか。何か劇画的な感じがしてしまうのである。十分に面白いのだから、もう少し重厚さが欲しかったと思う。桃山ビート・トライブ/天野純希も小説すばる新人賞だったと思うが、昨今ははこの手の方が受けるのだろうか。





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