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Libro2009インデックス




海王(上・下)/宮本昌孝

武人として超越しており、清爽さでひとを魅了し、乱れる世に平穏をもたらそうとしながら非命に斃れた快男児・足利義輝(室町幕府十五代将軍)の生涯を描いた「剣豪将軍義輝」の続編にあたり、義輝の落胤である海王(ハイワン)が父親と同様に胸透く活躍をする痛快時代小説である。義輝ゆかりの人々も多数登場し、前作のファンとしてはとても懐かしい。

ハイワンは、かつて義輝を見込んだ明人和冦五峰王直の娘メイファを養母とし、海商の子として健やかに育っていたが、血が呼ぶのか思わず知らずに戦国の争乱に巻き込まれていく。かつて義輝の同志として登場した信長・光秀・家康などは、義輝亡き後それぞれ権力欲に取り憑かれており、将軍家血胤を政治的に利用しようとするのである。更に、義輝に対して復讐の念を頂く島飛び天狗やメイファに恨みを持つジャオファロンなどの悪党につけねらわれ、何ともにぎにぎしく海王の成長が描かれることになる。

ハイワンにはやはり武術の素質があって、義輝の武芸の師である朽木鯉九郎と飄々とした忍者・浮橋のような主従コンビ秋鹿京之介と八雲に巡り会い、剣の弟子となる。秋鹿京之介は世を忍ぶ仮の名であり、もつれた因果の糸が明らかになりつつ、爽快な師弟コンビは我が手で運命を切り開いていく。

ハイワンの少年時代に、自由商業の町堺で因縁のできた小野善鬼という悪役が登場し、ハイワンに付きまとう。こういうのはいずれ改心し、ハイワンの良き配下にでもなるのかと思ったが、そうでもなかった。ジャオファロンにも何か事情がありそうながら単に悪辣な海賊としてしか描かれず、このあたりに何か整合性が欠けるような気がするが、まぁ、長大な物語であるのでどこかに齟齬が生じるのかもしれない。

前作にも登場する九条 稙通(くじょう たねみち)という公家が今作でも活躍しているが、関白と列ぶような名家の人間ながら、幻術を極めた風狂の徒でもあり、義輝に魅了されてハイワンの出生にも関わっているという因縁深き老人である。幻術師風箏としてハイワンを助けるのだが、偏屈で飄々として、何とも面白い爺さんだ。

戦国時代の権力闘争に巻き込まれ、血の持つ因縁を意識しつつ己を見失わないハイワンがとにかく爽快だ。青雲の志を描くのが得意な著者による、闊達誠実な少年の成長が快いビルドゥングス・ロマンであり、スピーディーな展開の剣豪小説であり、何重にも楽しめる快昨時代小説である。





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