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Libro2009インデックス




箕作り弥平商伝記/熊谷達也

箕作り・箕直しとはサンカの別称であり、流浪の非農耕民に目がない者にとってはこのタイトルはぐっと来るものだった。著者がマタギをモチーフにした物語で直木賞を受賞したことは知っていたが、今まで作品は未読。東北の民俗伝承に材を採るのが得意なのだろうか。

秋田、太平黒沢で箕作りに精を出す弥平は、頑固で短気で猪突猛進で正義感の強いおっちょこちょいである。生まれた時から左右の足の長さが違っていて、歩く時には大きく傾くが、足は速く腕っ節強く、弥平の体をからかう者は痛い目に遭うことになる。優秀な箕作り職人である弥平は、また行商としても優れているようだ(行商デビューで失敗した時、富山の薬売りが助けてくれたエピソードがいい)。年子の姉が嫁ぎ先から出奔してきており、なぜだか知りたくなった弥平が行商先に群馬を選んだあたりから大きく物語が動き出す。

仲の良い友人と共に東武の駅に降り立った弥平は、自分たちが冷遇されることに驚く。主に東北・北海道を商圏にしている箕作りたちは、大概旦那場で歓迎されるのだが、関東での箕作りはサンカが担っていて卑賤視されているのだ。弥平たちが定住民であるのに対し、サンカは放浪民だからである(時代設定は大正末期だから、三角寛の猟奇サンカ小説がブームとなっていた頃だろうか)。

自分たちとは違う、しかし優れた箕を作る一家と知り合った弥平は、娘の気の毒な境遇に同情しているうちにこれを娶らねばならないと思い始めるが、水平社弾圧などと相まって、トラブルに巻き込まれ・・・。

題材に悲惨な部分はあるものの、からりとしてユーモラスな筆致で進んできただけにちょっと残念な結末だ。どこかで続編が書かれないものかと思う。東北訛りを多用した諧謔風の感じは、宮沢賢治や井上ひさしの後裔を思わせて好きだった。





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