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Libro2009インデックス




 

烏金/西條奈加

近未来の日本に出現したバーチャルな江戸が舞台の「金春屋ゴメス」でファンタジーノベル大賞を受賞した著者は、真っ当な時代小説も書けるんじゃないかと思っていたが、案に違わなかった。

本作は時代人情金融サスペンスとでも言う感じだろうか。烏金とは、朝一番に振り売りの職人などに一日分の仕入代金を貸し、夜に売り上げの中から利息付きで返済させるというもので、夜明けの烏と夕暮れの烏にまたがるから、というものらしい。

因業な烏金貸しのお吟婆さんに取り入り、何らかの企みを実行しようとしている浅吉は、知恵が回り、困っている者には優しく、いざとなれば牙をむくこともある若者である。借金を返せない者に稼ぎの手段を見つけてやり、そこから少しずつ返済させ、更には長期の顧客としてしまい、適当にお吟を儲けさせたりしている。どうもお吟とは何やら因縁があるらしく、物語は思わせぶりに進行していく。

実直な御家人の多重債務を整理してやったり(笑)、不良少年たちを生業につけるための計画をしたり、サスペンスだけではなく、人情物としてもなかなか読ませる。そして最終的にはかなりのお涙頂戴が待っている(笑)。

描写のそこそこに今風の物言いが多く、時代物の雰囲気としては今ひとつなのが残念だが、これだけの物語を作れるのだから、おそらく時代作家として進化していくのではないかと思う。





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