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Libro2009インデックス


新・大人の粋/立川談四楼

「落語も出来る文筆業」を標榜する著者が、日刊ゲンダイに執筆した短文エッセイをまとめたもの。江戸しぐさなどもからめ、落語界に伝わった、謙虚さと思いやりのマナーである「粋」についてをユーモラスに語っている。亀田問題や、朝青龍と高砂親方との関係など、時事的な問題に批判的な目を注ぎながらそこにちょこっと笑いや機知のセンスを交えているが、そういうのも「粋」というものなのだろう。

落語界に伝わる格言「ヨイショはされる身になり丁寧に」が何とも示唆に富む。無闇なおべんちゃらには何にも芸がないということなのだろう。師匠の立川談志が若手を引き連れて鰻の頭や肝で飲ませる居酒屋でごちそうした翌日、古今亭志ん駒が「昨日は鰻屋でごちそうになり、ありがとうございました」と礼を言ったそうで、談志は大喜びしたそうだ(笑)。聞いていた他の人には談志が若手に大盤振る舞いしたと聞こえるだろうし、『誠意があること、気が利くこと、少々のデフォルメとオリジナリティ。ヨイショの極意はどうもそのへんにありそうです。』という著者の弁もうなづける。

前座のうちは師匠の理不尽なお小言をくらうこともあるが、逆らったり弁解したりは御法度だそうである。「謝っちゃえ謝っちゃえ、頭を下げてるうちに小言は頭の上を通り過ぎらあ」という楽屋に伝わる名言もあるそうだが(笑)、別の項で、昨今の「言い訳ばかりで謝罪になっていない謝罪会見」について書かれているのを見ると、この、「とにかく謝る」という姿勢が欠如していることが分かる。己の非を認めた上で真摯に対応すればあそこまでのバッシングはなかろうという訳である。なるほど、と思う。

粋でちょっと良い話を楽しめるエッセイ集だ。



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