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Libro2009インデックス


日本の放浪芸/小沢昭一

俳優で、個性的な話術が特色の著者は放浪芸能史に対して強い関心を持っており、その方面の著作が何冊もある。放浪芸マニアなのだ。保存された伝統芸能には興味がないらしく、70年代に現役(金が稼げる)の放浪芸を訪ね歩いて採録したレコードの著者のナレーション部分や解説書、その他放浪芸について書き記した文章を再構成した放浪芸探訪ルポである。当時は現役だったとしても現在ではどうなっているだろう。

万歳(漫才ではない)、春駒、大黒舞などの新春の門付芸、布教のための節談説教、祭文(このあたりから浪曲が派生するらしい)、河内音頭など、卑賤視されつつしぶとく生き残ってきた放浪芸にスポットライトを当て、演者にインタビューするなど、中世以来の芸能民の伝統を感じさせてくれる。時代に合わせて様々なものを貪欲に取り込んでいく芸能が現在に生き残っている訳で、「正調を抜け出たもののみが、次の正調の座につくのである」という一節がいかにも表現者である著者らしい。

興味を持っている香具師(テキヤ)についても一章を削いており、これも興味深く読んだ。昨今はただ屋台が並んでいるだけに思える香具師だが、啖呵売(たんかばい)という売り芸である訳だ。啖呵売の子孫は、現在は実演販売試食販売の口上になっているような気がするが、そうするとあれも放浪芸の一種か(笑)。

非常に興味深いが、音源なしで読んでいくのはお預けを食らっているようで辛い。現在の版なのだからダイジェストのCDでも付けて欲しかったところだ。出来れば音源付きで読みたい、周縁好きにはたまらないルポだった。



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