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Libro2009インデックス


一回こっくり/立川談四楼

自身の来し方を語り、家族の死を語り、それを江戸時代を舞台にした創作落語の結末につなげていくという手の込んだ落語私小説である。

群馬に育った著者は、子供の時に幼い弟を亡くしているが、この挿話から始まる冒頭が哀切だ。可愛くて健気な弟像が浮かび上がってくるのである。自分が遊びに連れて行かなかったばかりにちょっとした怪我をし、あっけなく破傷風で逝ってしまったことへの後悔や父母の悲しみが切々と綴られている。

また、母親は医療事故で60代で亡くなり、手術に立ち会わなかったことを悔悟し、医師に対する怒りを燃やしていたものが、何回かの法事を経るごとに穏やかになり、母の懐かしい思い出を語るようになる。家族の歴史とは死別の歴史なのだと思う。

江戸時代を舞台にした創作落語を作ってみたいという著者の目標を励ます友人がいて、子供を亡くした夫婦の噺を完成させて終了となる憎い演出だ。創作落語の出来は、文字で読んだだけでは分からないが、笑いよりも人情の方が主眼となっているような気がする。いずれにせよ自称「落語も出来る文筆家」は筆達者だ。



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