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Libro2009インデックス


 

旅芸人のいた風景/沖浦和光

箕面の往還筋に育った著者の見聞した漂泊の人々の姿を、郷愁を込めて描いた新書ノンフィクション。祈祷や遊行聖、大黒舞・春駒などの予祝芸能、旅芝居、香具師、大道芸などは、1927年生まれの著者の子供時代にはよく見られたものであるらしい。

社会の低層の人たちであるから、普段は卑賤視されていても正月だけは神の祝福を伝えるマレビトとなるなど、聖と賤の逆転があったらしい。やはり新年を寿ぐ「万歳」から予祝要素を抜いてコミカルな掛け合いになったものが現代の漫才だそうだが、正月になるとテレビに芸人があふれるのは、現代の予祝と言えるのか、とも思う。

本書での香具師は、コロビ、サンズンなど、祭礼・縁日に屋台を並べる露天商(テキヤ)とは違い、何らかの芸をしながら物販をした行商人(大ジメ)のことだ。ガマの膏売りに代表させているが、芸を見せながら大衆薬などを売りあるいたものらしい。歯医者もあれば、化粧品、香料などもあり、「諸国妙薬取扱所」を称していたそうだから、いかにも香具であり、神農道という感じがする。因みに香具師は、古代中国の医薬神・神農黄帝を信奉している。

明治政府の定住民化政策によって、これらのうさんくさい流浪の人々は徐々に姿を消していったらしいが、「定住農耕民にとって、ハレの祝祭性や域外の情報をもたらしてくれる非定住民はリンパ液のようなものだったのではないか」と五木寛之が書いているとおり、現代の自分にも何とも魅力的に映る。沖浦や網野善彦、作家の隆慶一郎や半村良に魅了されるのもこの「非日常性」に他ならない。そういった非日常性を満喫できる新書である。



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