50代と思しき画家が、鉄道を乗り間違えてたどり着いた不思議な田舎町に住み着き、そこでの日々をユーモラスに綴った掌編小説集。
時代設定がよく分からないが「このあいだの戦争」というような描写もあることから、戦後数年くらいということになっているのだろうか。何しろ浮世離れしている町なので時代を感じさせるものがないが、描写は現代風である。
そうした町で出会うちょっと不思議な出来事を淡々と描いており、中国古典の「聊斎志異」や「家守奇譚/梨木香歩」に通ずるような気もするが、あそこまでのおどろおどろしさはなく、すべてが淡々と優しい。
下宿先の小学生チサノとの会話が何とも楽しい。年寄りっぽい教訓めいた愚痴をこぼす小学生は「女が苦労しているあいだ、男はそうやって一銭の得にもならないことを考えてるんだから、呑気なもんだ」「のんびり歩きまわって絵を描いていればいいんだから、いい身分だね」「わたしはこれから学校にいってつらい思いをするというのに」「そんな物見遊山をしていられる身分になりたいもんだ」などとぶらぶらしているように見える画家をくさすのである(笑)。
読後にほんのりと楽しい気分になれる佳作である。