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Libro2009インデックス




 

四畳半神話大系/森見登美彦   

森見登美彦作品らしく、相変わらず自意識過剰でバンカラでアナクロで屁理屈こきな京大生が身勝手な独白を延々展開しているドタバタファンタジーである。

全体は四部に別れていて、同じ主人公の人生が四パターン描かれている。『映画サークル「みそぎ』『自虐的代理代理戦争を戦う樋口師匠の弟子』『ソフトボールサークル「ほんわか」』『秘密組織<福猫飯店>』に入部して三回生の春に逃げ出すという筋書きは一緒で、その後に辿るドタバタもまぁ似たり寄ったりだ。

主な登場人物は共通しており、樋口先輩(常に浴衣姿の仙人か天狗のような古い学生)、羽貫さん(酔うと人の顔を舐めたがる女傑の歯科衛生士)、明石さん(理知的で可愛く、気も強そうな黒髪の乙女)などがにぎにぎしく主人公と絡まるのであるが、出色は何と言っても主人公の親友小津である。

『夜道で出会えば、十人中八人が妖怪と間違う。残りの二人は妖怪である。弱者に鞭打ち、強者にへつらい、わがままであり、怠惰であり、天の邪鬼であり、勉強をせず、誇りのかけらもなく、他人の不幸をおかずにして飯が三杯喰える。およそ誉めるべきところが一つもない。もし彼と出会わなければ、きっと私の魂はもっと清らかであったろう。』と主人公は述懐するのだが、この妖怪ぬらりひょんのごとき卑劣な男には妙な愛嬌があり、何やら喪黒福造の若い頃を思わせるのだ。「黒に交われば黒くなる。あっちへ行け。」と、常に主人公から悪罵を投げつけられ、それでも平然とにたらにたらしているところを見ると、人間として主人公より上位に立っている感じもある。主人公とは運命の黒い糸で小指が結ばれているそうだ(笑)。

最終篇だけ、主人公は四畳半の無限迷宮に迷い込むという不条理な展開をしており、その多元世界が四つの人生の答えになるのだが、四畳半彷徨は結構哀切。悲しくも笑えて怪しい傑作である。

ところでこのエントリーを掲載した後に著者のブログを見に行ったら最近かぐや姫モドキなる女性と結婚された由(笑)。
http://d.hatena.ne.jp/Tomio/20090106




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