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Libro2009インデックス


海辺の博覧会/芦原すなお

「三丁目の夕日」のヒットと関係あるのかどうか、著者の少年時代と思しき1960年前後の悪ガキたちの遊びと生活を描いた、ユーモアとノスタルジーたっぷりの少年小説である。

著者は香川県観音寺市の出身だから、この物語の舞台も多分そうなるのだろう。風光明媚で、何となくのんびりした昭和の田舎の風景が彷彿としてくる。

いちおう「ぼく」という一人称で語られているが、主人公は五人の子供である。男勝りで知恵が回り口も達者なマサコを大将に、ひとの良さげな男子二名、やんちゃな兄弟の五人組が実に楽しい。古語は辺境に残ると言われているが、「のう、アキテル(と兄を呼び捨てにする)、〜してくれ。たのまい、の、たのまい。」と駄々をこねるフミノリと、すかさず三歳下の弟の頭を張り飛ばすアキテル兄弟の掛け合いは狂言のようだ。

そして、多少精神に変調を来した老人(主要な人物だ)やゴクツブシや生活能力の欠如した父親など、中途半端な人たちがエヘラエヘラと生きていた時代は実にユートピアに感じられるが、やはりユートピアとして描いているからこそなのだろうなぁ。



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