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Libro2009インデックス


 

ROCKER/小野寺史宜

女子高生が音楽に目覚める青春小説である。

両親が離婚し、母親が働いているのでわりあい自由に生きている堀美実は、高校は卒業できるぎりぎりの日数しか行く気がなく、友人は作らず、従兄の永生(えいしょう)のアパートに入り浸る日々だ。ひねくれ者でちゃらんぽらんに見える永生だが(しかもこれでも高校教師だ(笑))、美実を適当に守っている。永生の両親も離婚しているが、父親はプロのミュージシャンで、永生自身のギターの腕もプロ級である。そして、美実をストーキングする(笑)男子がロック部の顧問になってくれと永生に頼み込み、音楽小説としての車輪が回り始めるのだ。

美実が周囲に壁を作るのは、幼い時の体験が原因だということになっている。かといって暗くも人嫌いでもない。ごく普通にあっけらかんとしていてちょっと違和感を持つのだが、その辺が却ってリアリティなのかもしれず、おそらく美実の壁はやっぱり深く切り立っているのだろう。

スポーツ小説や音楽小説は、読者を疑似体験のカタルシスを味わわせることができるかどうかに成否がかかっていると思うが、ブルースミュージシャンの元義理の伯父と共にステージに立ち歌う美実の姿が気持ちよい。それまで会ったこともなく、名前すら知らない美実に対し「愛しの姪っ子よ」と呼びかけ、「姪っ子には小遣いをやりたいが金がない」と嘯く元義理伯父が良い味を出している(笑)。

青春の危うさをユーモラスにコミカルに描き出しており、音楽青春小説の佳作と言えるだろう。



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