HOME
Libro2010インデックス




カウハウス/小路幸也

主人公の畔木(くろき)は大企業の商社で有望視されている若手社員だったが、不祥事を起こして鎌倉にある社有豪邸の管理人に飛ばされる。同棲している恋人を伴って赴任すると、なぜか我が物顔でテニスをしているひょうきんなじいさんと女子中学生がいて、邸宅内のピアノを中学生に弾かせろと談じ込まれる羽目に・・・(笑)。こうして、有能だがちょっと優柔不断な畔木のドタバタした管理人業務が始まるのだった。

畔木の優柔不断さは優しさの裏返しであり、恋人の美咲は天真爛漫な善人である。馘首を覚悟していた畔木を左遷で押しとどめた部長は有能で切れ者で強面のバリバリエリートだが、ほんのちょっとしたところに部下への優しさをにじませて、すごく得なキャラだ(笑)。

不法侵入者のじいさんも、ピアノの天才の女子中学生も、みなそれぞれに特殊な事情を抱えながら日々を懸命に生きている善人であり、しかも丑年ばかりなのでカウハウスと呼ばれることに。

因みに畔木は神戸の震災の経験者で、それが一種の傷として機能するのだが、部長の傷とも響きあい、上司と部下の通い合いも楽しかったりする。

こうして一連のゴタゴタを仕事に結びつけ、主人公が復権を果たすまでが描かれており、とても読後感が良いが、なんだか善人ばかりですいすいと物語が進んで物足りない感もある。企業小説、友情小説、家族小説など、さまざまな面で楽しくはあるのだが、もう少し引っかかる分が欲しいと思う。



HOME