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Libro2010インデックス




算法少女/遠藤寛子

三十年ほど前に書かれた児童向け時代小説であるが、江戸時代に実際に「算法少女」という算術指南書があったらしく、作者の分からないその本に、著者が想像で肉付けをしていったものだそうだ。

町医者千葉桃三の娘おあきは、父から算法の手ほどきを受け、かなりのレベルにまで達している。関流の弟子である旗本の若造が掲げた算額の間違いをおあきがつい指摘してしまった話が広がって算学に深い造詣を持つ久留米藩主有馬頼僮(ありまよりゆき)の耳に入り、姫君の算法指南役に、ということにまでなるが、上方算法よりも下に見られては適わないと、関流頭領の藤田貞資が文句を付けてきて、関流側の少女と算術比べをすることになる。当時の算術は芸や習い事であり、算学奇人伝同様にここでも流派の面目を競う馬鹿馬鹿しさが表れていて、その風潮を悲しむ算法家なども登場してくる。

気の良い町娘であるおあきは、むしろ回りの子供たちに算術を教えている方が性に合う真面目な優等生であるが、訳ありの少年に思い切った助力をするような義侠心もあり、実に児童文学らしい正義感が描かれている。和算研究からの評価もあるらしいが、和算をモチーフにしていてもあくまで正しい少年少女を主軸にした物語であろう。正義感あふれる少女少年にわずかのスリルをまぶして、ケストナー的時代小説になっている(でもケストナーの方が面白いと思う)。





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