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Libro2010インデックス




ライオンの冬/沢木冬吾

大戦中に狙撃兵としてフィリピンを転戦し、現在は東北の山中で獣を狩って暮らす山じじぃ伊沢吾郎の、フィリピンで受けた流れ弾に関わる謀略に街で起きた児童誘拐がからんで、冬の山中での壮絶な銃撃戦が描かれる山岳冒険小説である。

吾郎老人の受けた流れ弾には、かつてフィリピンに進駐していた日本軍にまつわる暗い因縁があり、ために命を狙われることになるが、反対側の勢力が吾郎を保護しようとする動きもある。

フィリピン兵士にとっては不慣れな雪中での戦いの中で、吾郎老人は何としても生き延びようと奮闘するのだが、元狙撃兵として有能さが描かれて頼もしい。同じように山で暮らす罠猟師猫田虎之助老人の活躍ぶりも痛快だ。

過去の因縁が壮大な活劇につながるのは冒険小説としてはありがちなパターンだろうが、老人たちの活躍と、キャラクターの面白さが新機軸だろうか。家庭が崩壊したたために吾郎老人の手元に引き取られた孫娘・結の脳天気さとお気楽さが物語の基調を明るくしている。

国際謀略、地方警察の捜査、雪中でのサバイバルと、材料は非常に派手でかつ卒なく描いているが、ちょっと薄目の感じがあるのが残念。もう少し重厚さが欲しかったとも思うが、手に汗握る活劇は十分以上に面白かった。



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