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Libro2010インデックス


続 獄窓記/山本譲司

秘書給与詐取事件で服役した元衆院議員の著者が、刑務所内での触法障害者の実態を記して話題になった獄窓記の続編で、出所してから「獄窓記」を出版し、刑務所内処遇に関しての発信や触法犯罪者の処遇改善に取り組み始めるまでを綴っている。

出所した著者は前科者コンプレックスに苛まれ、「福祉に携わりたい」と思っていても道筋は見つからない。焦りを感じながらも、それまでの己を整理するために「獄窓記」を書き上げる。最初の出版社には断らられるが、ポプラ社での出版にこぎ着け、ここから事態が大きく進展する。「獄窓記」によって刑務所内での触法障害者処遇の実態が話題となる中、触法障害者の弁護に携わっている弁護士から連絡を受けて、障害者支援施設などともつながりが出来てくるのである(弁護士の「よくぞ控訴を取り下げて刑務所に入ってくれた」という一言が笑わせる)。

更に法務省の矯正関連部局で講演をしたり、社会復帰促進センター(いわゆる民営刑務所)のプロジェクトに参加したりして、いよいよ理想の更生保護に取り組んで行く。元代議士という肩書きによる注目もあるのだろうが、ここで生きてくるのが著者の発信力で、やはり政治家としての資質が役立ったに違いない。

「獄窓記」でも感じたが、著者の文章には独特の臭みがあり、過剰な自己憐憫や反省やナルシストぶりが鼻につくこともある。まぁしかし、この辺の個性もひっくるめて本として面白く、新潮社ドキュメンタリー賞が受賞できたのかも知れない。前科者対談と言うことで、安倍譲二に「前科者はいつまでも文壇で白眼視される」というような事を言われて落ち込んだらしいが、上記の賞を受賞した際「山本さんバンザイ。あなたは日本一の前科モンです」という祝電を貰い、感激している(笑)。

受刑者になることは、順風満帆の著者の人生において大きなつまづきではあったろうが、触法障害者支援というライフワークを見つける契機ともなったのだから、著者にとって誠に禍福はあざなえる縄のごとしだなぁと思う。

普通の受け答えが出来るわりに判断力のない知的障害者は犯罪に利用されやすく、また、裁判となった時に自己主張ができないため、普通なら懲役刑にはならないくらいの罪でも一般刑務所に入れられる。そして、刑期が終われば行く宛てもなく娑婆に放り出され、何のフォローもないまままた犯罪者に逆戻りしかねず、その受け皿を作りたいというのが著者の狙いである。

また、刑務官が強権で服従を強いるような行刑制度では本当の贖罪意識は生まれないと説き、カウンセリングや職業教育を通して更正させた方が、将来的に行政コストも節約できると説いている。受刑者に人権はないとはよく聞く話で、著者ももっと(障害者に対して)人権尊重を主張しているが、ただし「受刑者にもっと自由を」というような人権派には与しないそうだ。

触法障害者の問題を世間に訴えるとともに、一人の中年男の再生の物語としても読めるノンフィクションである。



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