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時代・歴史小説2008ブックレビュー












おひで/北原亞以子

傷 慶次郎縁側日記/北原亞以子

侠風むすめ 国芳一門浮世絵草子/河治和香

再会 慶次郎縁側日記/北原亞以子

笹色の紅 幕末女鍼師恋がたり/河治 和香

峠 慶次郎縁側日記

のぼうの城/和田竜NEW

徳川三国志/柴田錬三郎

日暮らし/宮部みゆき

比類なきジーヴス/P・G・ウッドハウス

風魔/宮本昌孝

柳生薔薇剣/荒山徹



のぼうの城/和田竜
12/30

今年の話題作だ。

現在の埼玉県行田市に存在した水の中の浮き城・忍城(おしじょう)の攻防を描いた歴史小説。成田氏は北条傘下の地方領主であり、秀吉の小田原征伐に臨み城主成田氏親は秀吉への内通を決めていたのだが、城代成田長親が意地と誇りをかけて石田三成率いる大軍に抵抗する様を描いている。

主人公成田親長は城主の従兄弟である。鈍重で、才気や武勇とは縁がなく、領民たちからはのぼう様(でくのぼうの「のぼう」である)と呼ばれ、半ば馬鹿にされつつ親しまれている存在だ。農作業が大好きで、農民の中に混じりたがるのだが、不器用者に引っかき回されることが目に見えていて、のぼうが現れると恐惶を来す農民たちが笑える。

キャラクター設定も秀逸。勇猛さが売り物の家老・正木丹波守利英はのぼうの幼なじみだが、友人のトロさに常日頃から歯がみしている(こういうパターンは山本周五郎の短編にもあったが、のんびり加減の桁が違う(笑))。頭でっかちの軍略オタク若造・坂巻靫負、侠気あふれるガキ大将がそのまま大人になったような猛将・柴崎和泉守など、一癖ありげな登場人物たちは、それぞれにのぼうが好きなのである。

開城が決まっていた忍城攻めだが、石田三成の使者として乗り込んできた長束正家の虎の威を借る横暴な態度に、のそのそしていても誇りだけは高いのぼうが抗戦を決意、ここに、大軍に刃向かった痛快な攻防が展開されることになる。

普段は昼あんどんでも「やる時はやるぜ」と意外な才気を見せる痛快譚のパターンがあるが、のぼうは「やる時はやる」ようなタイプではない。ただ、俺が面倒を見てやらなきゃと万人に思わせるところがあり、それが彼の原動力なのだ。

しかし終盤、とてつもない凄みを見せる。盟友正木丹波をして「思えば名将とは、人に対する度外れた甘さを持ち、それに起因する巨大な人気を得、それでいながら人智の及ばぬ悪謀を秘めた者のことをいうのではなかったか。」とおそれさせるのである。まことに痛快。

この作品での石田三成は、パターンである冷淡卑劣な小才子ではなく、美意識と誇りが高いために自他に厳しいエリートである。秀吉の弟子を自認し、才覚で秀吉に対抗したいと思っているが故に、慣れない戦に燃え自滅するのだが、この男も好漢に描かれている。

まぁ、痛快な快男児が活躍し、胸透く読後感がある歴史物というのはある意味パターンではあるが、のそのそしたヒーローという点で新しいのではないだろうか。

 











峠 慶次郎縁側日記/北原亞以子
07/18

シリーズ第四弾。

富山の薬売りが碓氷峠で追いはぎに襲われて逆襲し、谷底に突き落としてしまう。自分のしたことが恐ろしく、名前を変えて江戸に潜んでいる薬売りと所帯を持った女にも過去があり、ちょっとした罠や落とし穴を回避出来るか出来ないかが人生の峠になっていることを秘めたタイトルである。

行方不明になった亭主を捜して江戸に出てきた女、身持ちの悪い男、盗賊団などがからみ、表題作はちょっとサスペンス風味の中編だが、相変わらずしみじみと読ませる。何だか山本周五郎の短編を思わせるようになってきたなぁ・・・。











笹色の紅 幕末女鍼師恋がたり/河治 和香
07/08

幕末動乱の時代を舞台に、女郎あがりの鍼師おしゃあと、塩飽出身の朴訥な幕府軍艦水夫(かこ)庄八の長年に渡る恋を描いた連作時代長編。

反骨精神が強く偏屈で、その割りに純真なおしゃあは、私娼窟に売られ遊女となった過去があるが、抱えた遊女を大事にする女将だったので、自由の身となっても女将のもとに足繁く出入りしている。

伝説の鍼師に落籍され、みっちりと技を仕込まれたおしゃあは才能を発揮し、あちこちで重宝されているが、この鍼治療の描写が詳細で、鍼とはこんな医学的なものだったのかという驚きがあったが、これはまぁ余談である。

ある日、風呂屋の追い回しの善次郎(この男の半生も興味深い)が、傷だらけで倒れていた水夫を連れ込むが、これが庄八で、朴訥で誠実で茫洋とした庄八に惹かれ、わりない仲になるおしゃあだった。

船乗りとして有能な庄八は、咸臨丸からオランダ留学と、長く留守をするようになるが、その間のおしゃあの不安な思いがひとつの読みどころになっている(庄八の転変は明治まで続く)。

波乱を経ながらおそらく40年以上の月日を寄り添った二人を描き、何とも切なく幸福な時代小説だが、気の強い女の転変の半生記という味わいは宇江佐真理にかなり近いような気がする。先に「侠風むすめ」を読んでしまったが、「侠風むすめ」には杉浦日向子の雰囲気が感じられるし、先人の影響を受けつつ、少しずつ自分の世界を築いているのだろう。これからも楽しみな作家である。











侠風むすめ 国芳一門浮世絵草子
/河治和香
06/16

浮世絵師歌川国芳の娘・登鯉(とり)を主人公にした青春時代小説。この設定は明らかに「百日紅/杉浦日向子」の本歌取りのような気がする。

一燕斎芳鳥の号も持つ登鯉は、生意気で気の強い十五才である。江戸時代のこととて早熟であり、片思いの兄弟子に抱いて貰ったことがあるが、それ以来振り向いてはくれず、悶々とした日々を送っている。このあたり、子供と大人の端境期の煩悶がよく描けていると思う。早いうちから性産業に従事される幼なじみの姿も哀れを誘うが、たくましく生きていけるようで、それが救いだ。

水野越前守による寛政の改革で世の中が窮屈になる中、放蕩無頼な国芳は、弟子もひっくるめて脳天気に暮らしているが、徐々に息苦しさを覚えるようにもなっている。こういう時こそ反骨精神を湧かせる国芳が痛快だ。成長期にあがいている娘を思いやる心も微笑ましい。

水滸伝のシリーズが当たった国芳だが、現代まで続くような彫り物の様式こそ、国芳の武者絵にあるということは初耳だった。今でこそ任侠のシンボルになっているが、武者絵ブーム後、堅気でも男伊達を売り物にしたい連中が好んで入れていたそうで、寿司屋の若衆など、飯台をあおぐ時に片肌脱ぎになるため、彫り物がないとやとってもらえなかったというのも面白い話だ。

千社札に凝った登鯉だが、これも江戸時代から愛好家がいたそうで、わざわざ禁止されているところに貼ってくるのが偉かったらしい。今と変わらないが、濡れ手ぬぐいに札を乗せ、えいやっと投げあげて高いところに札だけ残してくる「投げ貼り」など、なんとも粋な感じがする。江戸の遊びだなぁ・・・。登鯉は千社札の寄り合いで乃げんという男と知り合うが、男女の意地と情けがからんで、何ともいいようのない余韻を残す。

放蕩無頼の国芳一家の馬鹿馬鹿しさと、甘苦い青春が同居する、誠に面白い浮世絵小説だった。













風魔/宮本昌孝
08/06/03

小田原北条氏に仕え、戦国時代に盛名を轟かせた忍び集団風魔の頭領小太郎と、徳川家康側との角逐を描いた堂々の時代長編。

七尺の巨体を持つ小太郎は風神の申し子と呼ばれ、常に爽快な風をはらんでいるような、天性の明るさと爽やかさを持つ快男児である。関東が欲しい謀略家家康の奸計によって北条氏が潰れた後、風魔を抱えたい諸侯の招きを断り、ただ一人、北条の血を引く古河公方氏姫に仕える小太郎ら風魔一党だが、たとえ風のように自由に生きようとしても、有能すぎる戦闘集団は、新たな秩序を打ち立てようとする家康側にとっては目障りでしかなく、小太郎らはいやが上にも修羅の争闘に巻き込まれていく。

悪辣無惨な堪光風車、唐沢玄蕃、神崎甚内など、脇を固める悪役が物語を引き立てる。小太郎にとっては邪魔者でしかないこいつらを何故さっさと始末しないのかと思うが、妙に目こぼししてやってはさらに悪事を重ねていく感じは、「剣豪将軍義輝」での松永久秀を思わせる。なんで宮本作品の好漢はこう甘いのか?(笑)。

徳川側の悪役としては若き日の柳生又右衛門宗矩が登場しているが、時として冷酷すぎるほど悪辣なのに、ほんのわずかだけ人の良さが垣間見えて楽しい。唐沢玄蕃も又右衛門も孤独な戦闘者であり、だからこそ心の底で小太郎との戦闘を求めているのだが、友達がいないことを小太郎に指摘されてうろたえるのである(笑)。

知力優れ胆力もある、男勝りな氏姫との関係も読みどころだ。小太郎は、幼い頃の氏姫の相手役として常に保護してきたが、男女を超えた絆で結ばれている感じだ。終章、巨漢の小太郎が姫を運ぶのに使ってきた姫袋を、小太郎が雪の南天の枝にかけると、赤い実がポロポロとこぼれて袋の中に落ちていくシーンのなんと美しく切ないことか。「人の思いは止められない。だからこの世は面白い」という述懐が余韻を添えている。

宮本昌孝は「剣豪将軍義輝」「夕立太平記」「藩校早春符」など、青雲の志を描くのが上手い作家だと思うが、本作も快男児を主人公に据えて、多少血なまぐさいながらも楽しめる作品だった。

 








徳川三国志/柴田練三郎
08/05/02

江戸幕府の体制が固まり始めた三代将軍家光の時代に、改易などの厳しい取り締まりで不平分子をつぶしてきた松平伊豆守信綱(知恵伊豆)、巷にあふれる浪人を糾合して牙を研いでいる由比正雪、戦国気分を引きずり、我こそは将軍位を継ぐべきだと考えている紀伊頼宣の三派の争いを、それぞれに味方する忍びたちの暗躍も交えて活写する痛快時代小説である。

昨今でこそ、有能かつ真摯さのある政治家として描かれることもある知恵伊豆だが、ちょっと前までは冷酷卑怯な切れ者能吏という描き方が多かったように思う。それがここでは、剣も使えれば肝も太い、なかなか魅力的なキャラクターになっている。

信綱に味方するのは服部一夢斎一味で、服部一族ながら、公儀隠密とは一線を画しているグループだが、鴉の甚兵衛という飄々とした忍者が楽しい。紀伊頼宣に付くのは根来衆、由比正雪の張孔堂一味には山者一族と、忍者同士のチャンチャンバラバラも本書の大きな魅力だ。

ただ、知恵伊豆の行動にぶれが見られたり、三すくみの描き方に緻密さがなかったり、そのあたりが不満と言えば不満である。しかし、やはりシバレンの小説は面白い。

多分20年以上前に読んでいると思うのだが、久々の再読なので内容はすっかり忘却の彼方、 初めて読む気分で楽しんだ(笑)。











おひで/北原亞以子

」「再会」に続く慶次郎縁側日記シリーズ第三弾。今回も、地道に実直に生きている人間の陥るちょっとした罠や、わずかな幸せを願う庶民の哀歓を情緒たっぷりに描く。

慶次郎の養子晃之助旦那も伝法な同心ぶりが板に付いてきて、親父同様の粋な裁きをするようになっている。浮世絵師の巨匠・歌川国直の子に生まれながら、父親に認められずにもがいていた彫り師の生き方に慶次郎と晃之助の関係を重ねてみせる一編など、実にしみじみと上手いと思う。

「仏の慶次郎」のやり口が気に入らない強気の女空き巣狙いや、絶望している莫連女に佐七が寄せる思いや、同じ女中奉公に入った仲間の不幸を願いながら一生寄り添って生きることも考えている三十路女の葛藤や、貧乏くじを引かされ続けてキレてしまった老隠居を救う晃之助の思いやりなど、いいなぁ、洒脱だなぁ、人情だなぁと思わせる佳篇ぞろいである。













日暮らし/宮部みゆき

怠け者だが温情があって有能でもある飄々とした定町廻り同心井筒平四郎と、義理の甥っ子で、超絶的な美貌と頭脳を持ちながらもどこか滑稽な風情もある弓之助のコンビが、大店の暗い過去にまつわる事件を解いてみせた「ぼんくら」に続く長編。湊屋が姪の葵と通じてしまったために、正妻のおふじの悋気から起きた事件が未だに尾を引いている。

各短編が大きな長編の伏線になっているという構造は相変わらずで、子供の失意や、ストーカーなどをテーマにしたそれぞれの短編も読ませる。社会派ミステリー作家らしい庶民の描き方も、時に微笑ましく時にほろ苦く、ほろりとさせる上手さだ。

平四郎の奥方は、美貌の甥っ子・弓之助を町方に置いておいては、将来、女たらしとなって身を誤ると心配し、養子に迎えようと考えているのだが、煮売り屋のお徳の見立てが楽しい。「弓之助がたらすのは女ばかりではなく、年寄りも大人の男もやっつけてしまう。ジジイやババアを転がす力のある者は、ただの穀潰しの女たらしにはなり下がらないものだ」と考えているのだが、何だかジャニーズ事務所のタレントのようだ(笑)。

人間関係の描き方の上手さでは、平四郎と弓之助コンビの情愛の深さも楽しく、「お前の頭を撫でてもいいかい」と言われて頭を差し出すあたり、非常に微笑ましい。このあたりは作者の独擅場だろう。

今回も湊屋の事情が影を落としているが、名家にまつわる暗い過去という点で、一時代前のハードボイルドを思わせる感じだろうか。















再会 慶次郎縁側日記/北原亞以子

元八丁堀同心が関わる事件を飄々と綴る、慶次郎縁側日記シリーズの第二弾である。

相変わらず山口屋の寮番として飄々と暮らしている慶次郎だが、そういう男にこそ妙な依頼ごともうってつけなのか、もめ事の方からやってくる。だが、ほとんどの事件の解決に慶次郎が直接関わるわけではない。ほんのちょっとだけ慶次郎や義息の晃之助が関わり合うだけで、当事者たちのその後がどうなるのか気になるのだが、それも語られない。読者をある種欲求不満にさせるのだが、それもまた手口だろう。筋運び、会話の妙、人情の機微など、もう何とも言えず情緒あるシリーズである。

出色なのは、前作同様、蝮の吉次と呼ばれる岡っ引きである。人のあら探しをしては小遣い稼ぎをするひねくれ者だが、純粋な部分や人の良さも覗かせていて、妙に魅力的だ。

吉次が脅そうとしたのは、親切ごかしに孤独な年寄りに近づいてけちな盗みを働く若者である。甘ったれた我が儘者ではあるものの、決して芯からの悪党ではなく、孤独な年寄りの方も分かっていながら憎からず思っていて、ゆすろうとしても仕事にならない。妙に仲良さげな二人を見て、毒づきながら去っていく終末のおかしいこと(笑)。ユーモアと人情に苦みのスパイスがまぶされ、極上の味わいである。

辰吉、慶次郎、吉次と、その昔に訳のあった女たちに振り回される「再会」も、つくづく大人の小説だなぁという感じだ。













比類なきジーヴス/P・G・ウッドハウス

おそらく戦前と思われるイギリスを舞台にしたユーモア小説。イギリスではかなりの人気作品で、シリーズ化されているらしい。

語り手は貴族のどら息子バートラム・ウースター(バーティ)である。一応オックスフォードを卒業しているらしいが、定職もなく遊び暮らせる高等遊民なのだろう。そして、バーティの召使いがジーヴスで、慇懃かつ主人思いのこの男が類いまれなる叡智をもって主人の危機をたびたび救うのである。

バーティの友人リトル・ビンゴも伯父からの小遣いで暮らしている似たような道楽者だ。惚れっぽい性格をしており、ちょっと行き会った女性に片っ端から一目惚れしては、バーティをドタバタに引きずり込む。厳格なアガサ伯母さんは、道楽者のバーティを何とかしようとして縁談を持ち込んだりするが、バーティがはまり込んだそう言った泥沼から引き上げてくれるのがジーヴスなのだ。

基本的には主人思いのジーヴスだが、服装に関しては保守的で、バーティの購入する奇抜なファッションが気に入らず、冷たい戦争をしている時がある。何とも奇妙で楽しい主従関係だが、余裕のある者にとってだけ優雅だった時代の雰囲気という感じだろうか。やや辛辣なユーモアはイギリスならではのものか、「ボートの三人男/ジェローム・K・ジェローム」なども思い起こさせる。









傷 慶次郎縁側日記 /北原亞以子

単行本で出た当時に一度読み、凄く面白かったのだが、続刊ラッシュに追いつけなくなって挫折。文庫化されたものを読んでみたがやはりとても良い。全体にはユーモラスで人情豊かで少し苦みが利いた連作時代小説だが、最初の一編だけがむやみに哀切である。

南町奉行所定町廻り同心・森口慶次郎は、可愛い一人娘と暮らす男やもめで、娘と相思相愛の婿を取った上で隠居することを考えていたが、婚礼を間近にした夜に娘が自害。男に陵辱されたことを苦にしてのことだった。かつては「仏の慶次郎」と呼ばれ、下手人を捕まえるよりも下手人を出さないことの方が大事だと考えている同心だったが、復讐の念に駆られ、不埒な男を追い回すことになる。

脇役として登場する岡っ引きの辰吉は、恋女房を殺され、復讐に奔るところを慶次郎に止められた過去があり、今度は必死に慶次郎を止めようとする。

北町同心の手下で、相手の弱みにつけ込んだゆすりたかりを得意とする吉次という岡っ引きは相当にねじ曲がった奴なのだが、心の底に善の念を残しており、慶次郎に味方している。なかなか良い味を出している名キャラだ。

そして、この二人の制止もむなしく仇を捜す慶次郎だが・・・。















柳生薔薇剣/荒山徹

柳生家を狂言回しにして、戦国末期から江戸幕府初期の日本と朝鮮の対立関係をけれん味たっぷりにおどろおどろしく描く伝奇時代小説の名手の作品。今回は柳女剣士が主人公である。

この小説の時代背景として回答兼刷還使がある。後には朝鮮通信使という名称になるが、三代将軍家光の代になる頃まで、文禄慶長の役で日本に連れてこられた朝鮮人捕虜を連れ返す行事があったそうだ。

肥後藩士貴月主馬は、幕府への阿りから藩主より妻になっているうねを差し出すように命じられるが、うねはこれを拒否。主馬とうねは息子を連れて脱藩し、朝鮮との縁が切れると信じて東慶寺を目指す。

しかし、朝鮮との不和を起こしたくない西の丸の大御所秀忠や土井利勝は、東慶寺からうねをあぶり出そうとし、逆に家光は柳生を使って東慶寺を守ろうとする。政治的な野望に燃える宗矩は、出世の好機とにらんでここぞとばかりに張り切ることになる。

ここに登場するのが柳生矩香という女剣士。宗矩の娘で、剣を取っては名手十兵衛よりも、父宗矩よりも上を行く女傑であり、男子禁制の東慶寺を守るべく送り込まれるのだった。

本丸・西の丸の争いは、宗矩の策略と矩香の剣で本丸が勝ち、利勝も己の非を覚るが、それで収まらない朝鮮側の使者は、駿河大納言忠長に接近し、柳生と、そして矩香と因縁浅からぬ魔剣士・幕屋大休が召還されることになる。ここらまでは伝奇色はなく、普通にチャンバラ小説なのだが、2/3を過ぎたあたりで妖術師が登場し、やっと荒山作品らしくなってきた(笑)。

ことさらに朝鮮側の理不尽を言い立てるのは「拉致」を念頭に置いてのことだろう。いかにもこの著者らしい歴史観だが、今回はうねと矩香という女性を主眼に起き、やや新境地かもしれない。但し描き方は今ひとつ不自然だ。









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