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Libro2009インデックス


歩く/ルイス・サッカー

「穴」のスピンオフ作品で、「穴」の主人公スタンリーの収容所仲間だったアームピット(脇の下)が主役になっている。X・レイも登場しており、どちらも生き生きと描かれているが、「穴」の時にはどちらもスタンリーにまとわりつく悪のイメージしかなく、このキャラ造形は意外だった。

地獄のグリーン・レイクキャンプから世間に戻ったアームピットは、高校に通学しながら造園潅漑会社でアルバイトし(穴掘り技術が認められている(笑))、真面目に更正しつつある。

X・レイの方は口の上手い、憎めない小悪党で、人気黒人アイドル・カイラ・レデオンのコンサートチケットを高値で転売して一儲けしようとアームピットに持ちかけ、ダフ屋業に出資させるところから、物語の幕が開く。

親からさえ今ひとつ信頼されていないアームピットだが、隣家の白人少女ジニーとは大の仲良しだ。ジニーは脳性麻痺を持っており、一方的にアームピットが保護する関係かと思えばさにあらず、アームピットはジニーとの友情に感謝しているのだ。この関係が暖かくて良い。

転売用に購入したチケットでジニーとカイラ・レデオンのコンサートに出かけたアームピットはX・レイに偽造チケットを渡されており、逮捕されかけるトラブルになるが、居合わせた市長のおかげで救われ、ついでにカイラ・レデオンの招待でステージ横から観覧することになる。そしてカイラがらみのトラブルに巻き込まれ・・・。

アームピットに対しては誠実だし筋を通すX・レイとの友情、ジニーとの友情、カイラとの淡く切ない恋愛、人種差別、両親の無理解、立派な大人たちの理解など、随所に読みどころのある、痛快でユーモラスなYA青春小説である。アームピットがグリーン・レイク・キャンプを出所した時、カウンセラーに「あなたの将来は激流を上流に向かって歩くようなものだ。大股で一気に歩こうとすると足下をすくわれるから、小さく着実に歩きなさい」と教えられていることに基づくのだろう。暴力で収容されたアームピットだが、これだけ堅実に生きているのだから大丈夫だと思わせる結末だった。



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