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Libro2010インデックス




ROCK 'N ROLL SWINDLE 正しいパンクバンドの作り方
/嶽本野ばら

「下妻物語」でヤンキーちゃんとロリータちゃんの強烈な友情を描いてみせた嶽本野ばらが、元々大好きだったパンクロックのライブに足繁く通うようになり、弾けもしないギターを買って、一夜限りのつもりでフロントとしてバンドDRAWERS(ドロワーズと読むのかと思っていたが、調べてみたらズロースのことだった(笑))を組み、「目指せフジロック」でズブズブとのめり込んでいく過程を描いたパンクバンド私小説。DRAWERSは頭の悪いラモーンズが賢いソニック・ユースを真似しているようなバンドがコンセプトだそうである(笑)。

出てくるキャラが下妻同様にぶっ飛んでいるので、これはノンフィクションじゃなくて創作ではないかと思ったら、巻末に「基本的にノンフィクション。しかし面白くするためにデフォルメしたり、小説の都合上、フィクションも多少混ざっている」と断り書きがあった。ドラムは元The Willardの魔太朗(音楽的には一番確かだが突っ走りやすい)、ベースはアニメソングなどでも活躍するYURIA、ギターは天然キャラのMieshaと、著者以外にもなかなか濃いメンバーなのである。

パンクへの愛も熱く語られているが、どうも、メジャーレーベルには背を向け、パンクへの情熱だけでインディーズ活動し続けるバンドが数多あるらしい。パンクとはひたすらノイジーで過激で破壊的で、ノリと勢いで納得させてしまうロックくらいの認識しかない自分には(つまりあまり音楽的ではないと考えている(笑))、ハードロックを排斥し、パンクのみを認める著者の姿勢は分かりづらい。音楽通ぶっている部分も少し鼻につく。しかし対象が何であれ、愛するモノを語る心が本物ならば、やはり引き込まれてしまうと言うものだ。著者の大麻不法所持事件によって中断を余儀なくされたバンドがファーストライブにこぎ着けるまでを描いているが、フロントとして燃え尽きるあたりは心揺さぶるものがある。この人たちにとって音楽は記録されるものではなく、常に一度きりのパフォーマンスなのだ。

自分にはパンクロックはよく分からないのだが、下記引用部の著者の弁は説得力がある。

「パンクとは何か?−スリーコードならパンク。下手糞ならパンク。常に世の中の不平不満を叫んで、演奏中であるにも拘わらず、ステージ上でメンバー同士が喧嘩を始め、オーディエンスを殴ればパンク。ガーゼシャツにボンデージパンツを穿いていればパンク。 という訳ではないのです。」 

「パンクとは何か?−スタイルではなく思想。テキトーであること。僕はそこにもう一つ、重要な答えを付け加えるのを忘れていました。パンクとは−。袋小路の絶望を希望に変える唯一の手段。」

メンバー内の化学変化、対立、挫折、融和など、バンド小説にありがちなエピソードも盛り込み、ギャグと情熱で痛快に突っ走るバンド物語だった(あえて物語という)。

ところで、下記はスタジオのメンバー募集の張り紙で、著者も首をかしげたそうだが、かなり笑えるのでこれも創作じゃなかろうかと思ったりする(笑)。

「ベース、ドラム募集。当方、ヴォーカルとギターの二人組です。パンクでポップなサウンドを目指しています。週一くらいのペースでスタジオに入れる人、連絡下さい。好きなミュージシャンは、SEX PISTOLS、THE CLASH、NIRVANA、KISS、BON JOVI、BEATLES、B'z、サザンオールスターズ、ゆず、ケミストリー、湘南乃風、ドリームズ・カム・トゥルー、etc」

下妻の嶽本野ばらというキャッチフレーズは、本人は大変に嫌いらしいが、My Spaceに解説しているDRAWERSコーナーにはしっかり「下妻の原作者」と入っている。音源が聴けるが、確かに「下手糞ならパンク」というのが納得できる(笑)。そしてノリと勢いだけは感じられるのだった。 http://www.myspace.com/drawerspunk



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