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SF・ファンタジー2007



トマシーナ/ポール・ギャリコ         アナンシの血脈/ニール・ゲイマン        芥子の花 金春屋ゴメス/西條奈加

アメリカ第二次南北戦争/佐藤賢一        産霊山秘録/半村良



トマシーナ/ポール・ギャリコ

スコットランドの田園を舞台にした、獣医と愛娘とその愛猫を巡る心優しい物語。一応ファンタジーとなっているが、スーパーナチュラルな要素は少しだけだ。

アンドリューイ・マクデューイ氏は、医師になりなかったのに父親に家業の獣医継がされ、人間的にねじ曲がっている。妻には先立たれ、傲岸で尊大で独善的な獣医になってしまっているが、娘のメアリ・ルーだけには優しい父親である。

メアリ・ルーの愛猫トマシーナは、多少迷惑に思いながらもメアリ・ルーとの生活を楽しんでいるが、マクデューイ氏のことは嫌っている。このあたり、気位高く活発なトマシーナの独白がまず楽しい。

動物病院には多数の患畜が来院するが、獣医という仕事を愛していないマクデューイは、少しでも生きながらえさせたいと思う飼い主の愛情など頓着せず、やたらと安楽死ばかりさせている冷たい人間で、トマシーナが不調になった時にも、泣き叫ぶメアリ・ルーにいらつきながらクロロフォルムをかがせてしまうのだった。

衝撃を受けたメアリ・ルーは父親を憎悪して想像の中で父親を殺し、この世にいないものと思いこむ。そうして徐々に衰弱していく。

もう一人の主要人物「いかれたローリ」は町はずれの山の中に隠棲する純粋で気高い女性で、精霊と話が出来るようなスピリチュアルな人間でもある。慈悲の心が溢れているせいで傷ついた動物たちを放っておけず、ついには動物が自らローリを訪れたりしているほどだ(笑)。

娘を衰弱させているという噂が広まって動物病院は閑古鳥が鳴くようになっているが、マクデューイはローリに客を取られたと思いこんでいる。で、抗議すべく山の中へ出かけていくと、ローリは手に負えない傷を負ったアナグマに迷い込まれて途方に暮れていて、神の助けとばかりにマクデューイの来訪を喜ぶのだった。

しかし、ローリの飼い猫タリタはマクデューイを猫殺しと決めつけどうしても許せない。自らを古代エジプトの猫神バスト・ラーであると曰うタリタは、マクデューイに破滅をもたらそうとする・・・。

この物語は、ただメアリ・ルーとトマシーナの愛猫物語ではなく、愛の力が人間を変えるのかという、マクデューイ氏の魂の遍歴を描くファンタジーである。冷たい心にひびが入り、動物や子供たちへ関心を向け始めるあたりに優しさが漂い、まるでスクルージ(クリスマス・キャロル/ディケンズ)だなぁと思うのだった(笑)。












アナンシの血脈(上・下)/ニール・ゲイマン

不器用で冴えない大男ファット・チャーリーには普段疎遠にしている父親がいるが、この、愉快でおしゃれで女好きで傍迷惑な道楽者の父親が亡くなったという知らせがあり、葬儀に赴くと(ここですでにファット・チャーリーは大間抜けさを披露してくれる)、昔からの知人である老婦人から「あんたの父親はアナンシというアフリカの神様なんだ」ととんでもないことを告げられてしまう。

では、神様の息子であるはずのファット・チャーリーはなぜ冴えない間抜け男なのかというと、神様的部分はきょうだいのスパイダーが持っていってしまったということなのだ。 そして、まじないできょうだいを呼び出してみると、結婚まで純潔を守ると宣言していた婚約者を寝取られるわ、勤務先では社長の汚職の濡れ衣を着せられてしまうわ、踏んだり蹴ったりの目に遭うのであった(笑)。

一度は恨みからスパイダーを消そうとしたチャーリーだが、スパイダーの正体を知り、きょうだいの絆があることを確認すると、アナンシの敵と対決することになる。決してスーパーマンではなく、ちょっと歌が上手いファット・チャーリーとして。

このあたりが物語の見せ場でぐっと来る。父親の象徴であるフェドーラ帽をかぶるシーンも感動的。かっこ良すぎる父親アナンシを、登場人物の一人がキャブ・キャロウェイみたいと評しているが、自分的にはコンパイ・セグンドを想像させた。

アナンシとは蜘蛛の神様で、いたずら者のトリックスターらしいのだが、父アナンシやスパイダーのキャラクターがそのままである。ひとり律儀なファット・チャーリーが気の毒だが、この律儀さこそファット・チャーリーの真骨頂であり、泣きっ面に蜂の状態でも、事態を解決せんがために前進していくチャーリーについ声援を送りたくなる傑作ファンタジー。












芥子の花 金春屋ゴメス/西條奈加

 

近未来の日本(北関東地方)に独立国として存在する「江戸」を舞台に、非道・冷酷・暴力の噂が絶えない女傑・ゴメス親分(馬込寿々(マゴメスズを略してゴメス)率いる長崎奉行所(裏金春)が活躍するバーチャル時代小説。前編の「金春屋ゴメス」は第17回日本ファンタジーノベル対象受賞作である。

今回は、「江戸」から阿片が輸出されていると日本政府から抗議があり、町奉行所、長崎奉行所に摘発の檄が飛んでいるという発端である。

今イチ頼りないながらも正義感あふれる主人公・辰次郎は、異国市でサクという東南アジア系の村落麻衣椰の饅頭売りの少年と知り合う。かつて村同士のいざこざから父親が流刑に遭い死亡したサクはゴメスを深く恨んでおり、裏金春に殴り込んでくるが、これをかっさらっていったのがゴメスと反目する北町奉行・筧末森である。

筧家とサクの祖父にはつながりがあり、更に麻衣椰では芥子の花を咲かせる祭が行われていたことから筧に芥子栽培の疑いが持たれるが・・・。

疑惑を調べるために辰次郎は流刑島に潜入し危険な任務を遂行する。辰次郎と、ゴメスの元に配属された三芳朱緒という美貌の剣豪との行く立てなどが絡み合い、今回も文句なく面白いエンターティンメントに仕上がっている。

何度ぶちのめされても親分に立ち向かっていく辰次郎が熱い。締めの場面ではかなり冷酷なこともするゴメスだが、悪を憎む正義漢であり、親分子分の絆も読みどころである。結末に「江戸」の危機が提示されているので、続編も楽しみだ。












アメリカ第二次南北戦争/佐藤賢一

 

西洋史を舞台に、戦国時代小説的な歴史物を発表してきた著者による近未来ポリティカルフィクション。

2013年、アメリカ合衆国で南北に別れた内乱が勃発する。テキサス州ダラスで女性大統領が暗殺され、副大統領から昇格したアフリカ系アメリカ人ムーアが強権的な捜査と銃規制を行ったことに南西諸州連合が反発し、連邦を離脱したことによるものだ。

フランスの仲裁で現在は停戦中の北米を旅するジャーナリスト・森山悟が、取材の過程で見えてくるアメリカという超大国の実相に迫っていく、なかなかスペクタクルな近未来政治小説である。

がしかし、そこは佐藤賢一であるから、ねじくれたユーモアや皮肉や無軌道さが随所にあふれている。共に旅するのは、合衆国(北部)側の義勇兵である結城健人、やはり女性義勇兵のヴェロニカなどで、淫乱でワガママなコギャルのヴェロニカに振り回される森山が笑える。

そして徐々に明らかになってくる内乱の真相がスリリングで、何とも壮大で悲愴でコミカルな小説である。アレクサンドル・デュマ三代やカポネや女信長など、昨今はさまざな国や時代に取り組んでいる佐藤賢一ならではと言えようか。

初期に書いていた物は中世ヨーロッパを舞台にした時代小説だったが、現代から見れば想像するしかない時代の社会や政治や戦争に翻弄される人間を描いていたのだから、これを近未来の北米に移してみたということだろう。実に多彩な技で、また次回作が楽しみになるいうものだ。












産霊山秘録/半村良

ハルキ文庫から出ていたものを二十数年ぶりに再読。雰囲気に古くさい物は感じるものの、やはり飛び切り奇想天外で面白かった。

古代、天皇より上に位置し、特異な能力を誇ったヒ一族の末裔は、朝廷と世の中の平和を希求する勅忍となっており、乱世を収めるのは信長だと見切った一族は、影になり日向になり手を貸す。

四面楚歌の状態での信長に日本統一の機運が見えたのもそれ故であり、明智光秀も藤堂高虎も山内一豊もヒなのだった。それに目を付けたのが家康であり、かくて江戸幕府が開かれる。

日本の聖地は大体がヒが拠り所とする産霊山(むすびのやま)であり、その中心である芯の山は、人々の願いを聞き届け、明日に平和をもたらすとされている。

その芯の山こそが権力の維持装置でもあり、かくて幕末、東京大空襲、戦後にまで、権力者によるヒの争奪が持ち越されることになるのだった。このあたり、庶民の悲喜を描いてきた、いかにも半村良らしいモチーフだと思う。

家族制度を持たないヒは、里の女に子を産ませ、男であればさらってきてヒとして育てるが、女は異形に生まれついてしまう。それがオシラサマで、目も鼻もなく、日の光にも衣服にも弱く、地の底で裸で暮らしているのだが、ヒが理想を掲げながら女を使い捨てるあたりの抗議は、高邁な目的に陶酔していた学生運動の比喩でもあったろうか。

いかにも伝奇というにふさわしい大作だが、SFとして書かれているので、随所に念動力だのテレポートテーションだのESPだの超能力だのの用語が登場しているのがやや不満。ほとんどの時代が江戸までなのだから、時代小説的な雰囲気で書いて欲しかったと思う。 こういう作風、思えば荒山徹が見事に受け継いでいると思うし、荒山の「魔岩伝説」の権力維持装置の着想もここらあたりにあったのかもしれない。

ハルキ文庫は、角川書店を離れた角川春樹が始めたものだろうが、さすがに人気作家との縁が深いようで、過去の名作がラインナップされているようだ。ただ、気配りが行き届かないのか誤字脱字が非常に目に付いた。














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